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ボールを離さないで、スタンカ

ぼくはだいたい大丈夫だ。

だいたいにおいて大丈夫だ。

おおよそ病んでいるのは事実だし、お金もないのも事実だし、死にたいって思いが消えないのも事実だけれど、だいたい大丈夫だ。たぶん、そういうこったろうと思ってた。きっと、そういうことであってほしいと願ってた。つまりは、そういうことなんだと思い込んでいた。

だから、ボールを離さないで、スタンカ。

病院の帰りに、コンビニでカフェモカを買ったよ。ちょうど小銭があったから、それで支払ったんだ。甘くてあたたかいカフェモカだったよ。

秋の日が落ちるのが早いね。でも、すっかり冬のように寒くなってしまった。イチョウも黄葉していいのかどうか迷ってるみたいにみえるね。日当たりのいいところから、色が変わっていくのかな。

目を閉じても、開いても、現実というのはそこにあった。ほんのわずかなひと触れあった人が死んだりする。あるいは生きている。おれは生きているんだ。モニタの向こう側にはだれがいる? 犬がいるかもしれない、というのがぼくの信条。だけど、だれか血の通った人間がいるかもしれないと信じたいのも心情。

思い切りボールを投げてよ、スタンカ。

広い野原がある。いい感じに草が生えている。ぼくはそこを走る。ただただ走る。疲れたら寝転んだらいい。寝転んでいいくらい、いい感じに草が生えている。寝転んで、目を見開いたら、青空が広がっている。いい感じの雲が出ている。ぼくはその瞬間を逃したくないと思う。

スタンカのボールは誰にも獲れなかったよ。

アルコールと薬におかされた脳みそは、簡単な楽園を描くにも一苦労だ。もっとクリアな世界を生きる人たち、クリーンで、しかも収入がある人たち、寿命という言葉が無縁でない人たち、そんな人たちのことを考える。考えたところで無駄だから。おれはなにか広い草原と、白いボールのことを考えるだけ。秋の日の夕暮れ、冬の日の清冽な空気のことを考えるだけ。そして、だれをも置いてきぼりにして、ただ一人走り続けるだけ。息絶えるまで走り続けるだけ。孤立とは無縁。ぼくは孤独を愛している。一人でいることのすばらしさ、一人で立っていることのすばらしさ、これを捨てることだけはできない。

そのボールは最後にはミットに入ったよ、スタンカ。

暗い夜は落ち着くよね。午後三時に起きた日曜日はどうにもならないよね。たまにはおいしいラーメンとか食べたいよね。海の見える公園を歩きたいよね。バラの花とか咲いてないかな。咲いていたらいいのにね。