おれと植物、植物とおれ。おれは植物に興味が無いわけではありません。しかし、植物が好きなのか、詳しいのかと言われると、それはあやしい。あやしいどころではない。だいたいにして、そこらに生えている草木を見て「何か」と同定することはほとんどできません。ましてや、100種類の樹木の切り枝を45秒うらい見て即座に標準和名を書くなどという狂気の試験などできやしない。あ、いや、そういう試験があるのです。
いや、おれは葉っぱに強いよ、という人は受けてみてはどうでしょう。ちなみに、標準和名縛りなので、アオダモをコバノトネリコと書いても×になるし、アカシデあたりをソロと書いても×です。
しかしまあ、あらためて言いますが、興味がないわけでもありません。たとえば、ネットで「ビバーナム シナモミフォリューム」として売られているものについて、Viburnum tinusとViburnum davidiiの交配種らしいという説明がなされたりしていますが、なんか怪しい。だって、Viburnum cinnamomifoliumってWikipediaの項目にもありますし(ちゃんと出典としてRHSの本が明記されている)、王立園芸協会のサイトにもそんなことは書いていない。
Viburnum cinnamomifolium | cinnamon-leaved viburnum/RHS Gardening
そもそもにして、学名を見れば交配種どころか園芸品種でもなさそうだ、と思わないのでしょうか (もっとも「hybrid of V. davidii × V. tinus」は出回っている)。植物の分類もAPGへの過渡期(とはいえ、もうAPG IVの時代なのだけれど)だし、次々に世界中で新たな品種が作出され、あるいは各地の自生種が園芸植物として取り入れられるなかにあって、大変なのはわかるが、もうちょっとちゃんとしてほしいと思うばかりです。
……と、ここまで書いておいて言っておきますが、おれは上記の植物を見たことがない。正確には見たことがあってもそれと知らない、わけです。おれは名前を弄ぶのが好きなのです。野球ならスタジアムより選手名鑑、競馬ならパドックより競馬四季報(古い)、そういうタイプなのです。
ついでにいえば、おれは植物について学んだことのない、小学校の理科についていけなかった高卒文系なのであります。
と、そんなおれが今日目にしたのがこんなエントリーでした。
ちょうど一昨日、おれは下の本を読みおわったばかりなのでした。
- 作者: エイミースチュワート,Amy Stewart,山形浩生,守岡桜
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2012/09/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
べつに私はとくに毒のある植物が好きなわけでもありません。しかし、監訳がなんだかしらなけれど山形浩生だし、パラパラめくってみたら植物名の書き方、学名の書き方などがきちんとしている印象があり、それはたいへん好感が持てることなので、読んでみることにしました。
するとまあ、しかし、なんというか、植物みんな毒だらけだよな、ということになるわけです。そこらへんに植えられているわりに強力なキョウチクトウの毒あたりは有名ですが、本書を読んでいると「おまえもか」というものばかりでした。
適当に「そこらへんにあるのに」、「おまえもか」とおれが思った植物を列挙してみましょう。どれもが人を殺せる毒、というわけでもなく、腹痛、嘔吐くらいのものあり、アレルギー症状あり、あるいは犬などのペットが実を食べると危険、みたいなものもあります。
……ヘデラ ヘリックス(実)、トウモロコシ(ばかり食べる)、ジャガイモ(生ではアウト)、イヌマキ、オリーブ、クワ、ヒマラヤスギ、ブラシノキ(以上、花粉アレルギー)、セロリ、ライム(以上、光毒性)、キダチチョウセンアサガオ(エンジェルストランペット、目に毒)、キョウチクトウ(バーベキューで串にして……という話が事実かどうか定かではないと本書にはある)、ツツジ、ニセアカシア、イヌサフラン、ジンチョウゲ、クリスマスローズ、アジサイ、ランタナ、カロライナジャスミン、スズラン、スイートピー、チューリップ、ヒヤシンス、アルストロメリア、キク、ソテツ、カランコエ、ナンテン、……いま何点目?
まあいい、ともかく、植物は危険なのです。というか、危険なやつが生き残って現在に至っているといっていいでしょう。簡単にもぐもぐ食べられるようでは、淘汰されてしまっている。一方で、人間は人間でもとより耐性があったり、加熱などの調理などによってもぐもぐしてきたのであって、そのあたりは強いのかもしれません(けど、ウルシのウルシオールにかぶれるのは人間だけらしい)。
しかし、一歩間違えば、です。トウモロコシばかり食べるとペラグラというナイアシン欠乏症に罹るそうです。そして死ぬ。ソテツも種子を毒抜きしてデンプン質を食べる分にはいいのですが(ヒガンバナの鱗茎みたいなものか)、第二次大戦中のグアムではその余裕がなかったため、十分な下処理をせずに食されました。戦後、それが原因となり、変異型の筋萎縮性側索硬化症が流行し、成人男性の死因トップとなり、「グアム病」と呼ばれたそうです。あと、ソテツの種子2、3個でペットは死に至る可能性があるらしい。
で、この本は『毒な植物』の本ではなく、『邪悪』です。そういう意味で、コカやケシ、ニガヨモギ(アブサンの材料。ただし、後年の分析ではニガヨモギの成分ツヨンの濃度は大したことなく、単にアブサンのアルコール度数が高かったのが中毒性の高さの原因だったのだとか)、アサ、タバコ、ソライロアサガオなんかの、そっち系の植物あり、あるいは「侵略的外来種」あり、トゲが痛いやつあり、なのであります。マジックテープの発明が、ゴボウのトゲから着想を得たものだって知ってた?
あるいは、古いエピソードなんかも挟まれていて飽きさせません。おれの好きなフラウィウス・ヨセフスの名前なんかも出てきました。
紀元1世紀のユダヤの歴史学者フラウィウス・ヨセフスは、マンドレイクのおぞましい叫び声から逃れる方法をひとつ説明している。マンドレイクの根もとに犬を縄で括りつけておいて、安全な距離まで退散するのだ。犬が駆け出すと、根が引き抜かれる。叫び声で犬が死んだとしても、根は拾って使える。
愛犬家激怒。で、根を何に使うかというと悪魔憑きを治す、あるいは媚薬などと言われていたらしいのですが……その正体は、含有するアルカロイドに強い鎮静効果があり、昏睡を引き起こしたりするとのこと。まあ、悪魔憑きみたいになってるやつを静かにさせたり……媚薬というのはレイプ・ドラッグ的な? おそろしい。
というわけで、まあ、人間と植物、植物と人間。食べるばかりでなく、ときにうっかり殺されたり、あるいは別の人間を害するために使ったりと、その関係は密接です。というか、地球上で生きる限りにおいて、あらゆる生き物が植物との密接な関係なしにはいられない、というのが正確でしょうか。特定の昆虫との共生、みたいなやつもいますしね。
あと、よく言われるのが、イネだとかコムギだとかは、人間に都合よく植えられ、刈り取られ食われているいわけですが、逆に、人間の手によって繁栄している、人間を操っている、なんていう見方もできるわけです。なにがだれにとってどう邪悪なのか、おもしろい話ではあります。
以上。
<°)))彡<°)))彡<°)))彡
<°)))彡<°)))彡
<°)))彡
この本は毒の本ではないのですが、植物の本というとまずこれが浮かびます。
澁澤龍彦ならこっちでしょう。
あれ、荒俣宏のこのシリーズに毒の巻があったような気がするけど、気のせいか。
これはタイトルが好きです。
これを読んでいるのですから、まあ毒だらけというか、植物がそんなに無害なものでもねえよ、というのはわかるわけですが。