夢の失恋

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こんな夢を見た。

友人だったのか、仕事関係の人だったか、女性の声優が結婚することになった。みなで祝おうということになった。サプライズを用意しようということになった。パーティの会場か、その控室にみなが集まるが、だんだん部屋から出て、いなくなってしまう。ついには新婦が一人残されたところで、新郎が現れるという段取りだった。おれもメンバーの一人として、部屋にいた。だんだん人が減っていった。おれはなにかそこを立ち去りがたく、気づいたら、最後の一人になっていた。おれは新婦が隣の部屋にいるのを確かめて、そっと部屋を出て、柱のかげに隠れた。

すると、新婦が「◯◯タロー?…… ◯◯タロー! ◯◯タロー!」とおれの下の名前を呼ぶ。おれが最後に部屋に残っていたせいかもしれない。しかし、それはおれへの信頼のように思えた。

おれはその呼びかけがとても嬉しく、そして同時に悲しかった。その人が選んだのはおれではなかった。それでもおれを信頼してくれる。おれはその人が好きだったのに、その人と一緒になることはできなかった。ないまぜになった気持ちがこみ上げてきて、止まらなかった。これは恋の話であって、失恋の話なのだと深く思った。

そこでおれは目が覚めた。目が覚めたおれは、また目をつぶって、おれを呼ぶ声を反芻した。また、目をつぶってその声を思い浮かべた。おれは起きるのが嫌になって、会社を半日休んだ。会社を半日休んだのは夢の話ではない。他人の夢の話は、おおよそ面白いものではない。

 

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澁澤龍彦 夢の博物館

澁澤龍彦 夢の博物館

  • 作者:澁澤 龍彦
  • 出版社/メーカー: 美術出版社
  • 発売日: 1988/07
  • メディア: 大型本