ウーマンズ・ビートドラマスペシャル『溺れる人』/『今夜、すべてのバーで』中島らも

 開始から四十五分経ったあたりから見始めた。篠原涼子がスーパーで万引きをするあたりからだ。その篠原の体当たりの演技(なんて使い古された表現だろう!)がなかなかのもので、そのまま最後まで見てしまった。他に女医役の室井滋なんかも、当てはまりすぎの役という感じでなかなかよかった。逆に断酒会のメンバーに入っても違和感なく、そこらあたりが個性派というものなのかもしれない。
 さて、ドラマの内容は、主人公とアルコール依存症との戦いが中心だ。アル中は病院に行ったところで完治の無い病。たった一滴で地獄へ逆落としなのだ。主人公がついつい自販機から買ってしまうシーンもあったけれど、何より日本で禁酒が難しいのは、酒の手に入りやすいことという。アルコールは、万人に対して高い効き目と依存性を持つ、強力なドラッグなのだ……。あれ、なんかこういう話を読んで、そういう知識があるな。誰の本だったろうか。酔いどれといえばブコウスキーだけれど、さしものブクも日本のアルコール事情までは知らないだろう。さて……と、しばらく考えた末、ようやく思い出した。日本を代表する酔いどれ、中島らもの『今夜、すべてのバーで』(ASIN:4061856278)だ。
 それに気づいてしまったので、収納スペースの奥から文庫を引っ張り出してきた。この本は小説であるけれども、アル中とは何か、アルコール依存症とは何かという、格好のテキストでもある。それに、ジャン・ジュネが「悪を描いたのではなく、悪で描いた」と言われるように、この本も「アル中を描いたのではなく、アル中で描いた」と言えるような、著者自身の体験が色濃く見られる点が特色だ。パラパラとめくるうちに、ついつい読みだしてしまったけれど、女性の飲酒が男性に比べて歯止めがかかりにくい点や、家族という面からの問題解決への糸口なども述べられている。まさにこのドラマで描かれているような内容であった。
 しかしやはり、映像というのは迫力がある。篠原がゴミ箱を漁って、空瓶をあおるシーンなど、えらい迫力だ。そういえば、中島らもの作品には化粧品の中に含まれるアルコールの匂いを嗅ぎ取り、それすら飲もうとするなんていう修羅場も出てきたっけ。さすがにシーンは無かったな、だってスポンサーがカネボウだもんね。
 そう、「テレビ局にとって、ウィスキー、ビール、焼酎、清酒の広告宣伝費は巨大な収入源」(『今夜、〜』より)なのに、よくこんなドラマを放送した。これはとても意義のある話だと思う。タバコの害悪は昔から言われてきたけれど、俺が生きてきた四半世紀の中でも、最近さらにその傾向が強くなり、完全な悪者になってしまったようだ。その一方で、お酒についてそれほど言われない。アルコールはとても強力で安価な合法ドラッグなのだ。そのことを忘れてはいけないし、イメージばかり強調するメーカーの過剰な宣伝などにも目を光らせる必要があるかもしれないと思うのである。