一日カテキョー体験記

 高校一年生に英語を教えることになった。人の家の親子会議で勝手に「○○君(俺)なら英語が出来るだろう」ということになったという。家庭教師選びが大切だと家庭教師のCMですら言ってるのに。
 とはいえ、エサ(文字通り晩飯とビール)に釣られてのこのこと出向く俺も阿呆だと思う。一応エロサイトを見るくらいの英語力はあっても、英検準二級の俺。白羽の矢が立った理由であろう、大学に入ったのも何年前の話だろうか。おまけにその試験は辞書持ち込み可なので、実質国語のテストみたいなものだった。いや、しかし辞書があってもそれを国語と見るためには、ある種の変換が必要だ。そこらあたりを教えられるだろうか……。
 もちろん手ぶらで行くと、彼(男子高校生なのだ、残念ながら。たまには女子高生とおしゃべりしたい。話が通じるかマジ微妙だけど)は長文読解の問題集を用意していた。とりあえず、その最初のページから。問題をやらせるのは後にして、文章にひゅっひゅっと線を入れて、ざっと読み下していく方法を教えてみようとする。ここらあたりは、予備校や学校で仕込まれた方法なので、悪くはないはず。それに、例文もありがたいことに平易だった。わからない単語もない。が、案外基本的な部分を知らなかったり、必要な文法用語を覚えていたり、そこらあたり生徒を相手にする大変さというものか。
 それで、問題をやらせたりしつつ、適当に試験のテクニック(俺は予備校の講師あたりが教えてくれる、小技部分が好きだった。勉強は嫌いだ)など教えたりした。相手がどこまで覚えられたかは、ちょっとわからない。自分でもそれなりによくやったんじゃないか、と思った。
 しかし、そう思ったのもつかの間、問題の答え合わせをしていて、簡単な構文をど忘れして、和訳としては△になりそうな答えを教えてしまっていたのだ。おまけに、「この問題集の解答はちょっと変」くらいのことを言ってしまっていた。黙っとくわけにもいかず、これで俺様の教えは全般的に信用度失墜、教師失格の烙印である。
 いや、しかしだな、俺が受験生だったのはもう随分前だ。構文なんてのも単語・熟語と一緒で、忘れちゃうさ、そりゃ。ああ、だからあれか、新入生の教室まで来てカテキョー募集してたんだな、あれは。まあ、どうでもいいや、しかしなんだ、下手を打ったな。まあ、金を貰う立場じゃなくてよかったな。うん。できれば今度は国語か小論文、世界史でお願いしたい。いや、違う、もう結構だ。もうやめてくれ、こういうのは。君も、俺も、みんなも。