帰るに帰れない

 午前二時十五分になっているが、どうにも帰れない。突然、納期のちょっときつめなお仕事をするはめになった。それはそれでいいのだけれど、この件について上司の人が徹夜態勢でやっているのだ。そういうことになった原因は私がこの納期についてやばいと主張したことがあるのではないかと思ったりしているわけなのだ。しかし、彼はとても合理的な人なので他のスケジュールとの兼ね合いから判断して徹夜などしているとも考えられる。が、やはり私がきつめだと言ったからこうなっている可能性もあって俺は帰れない。帰れないとはいえ、自分のやるべき事柄はまだまだあるので、ただ帰らないと言って帰らないわけではない。徹夜ならエスタロンモカがあるさ、と思っていたらあと二錠しかなかった。しかし、やばくなったら飲もう、カフェインさえぶち込めば大丈夫さ、などと思っていたら、不思議なことに飲まなくても眠くならない。むしろ頭は冴え渡っている。俺は薬の効果を絶対信用する自己暗示のような思い込みを持つようにしているが、ついに薬を飲まずとも薬の効果が生まれ、これはプラシーボ効果というべきか、パブロフの犬というべきか、とにもかくにも新しいステージへ進んだのである。思い込みだけで世界だって変えられるぜ。仕事の締め切りは変えられないけれど。