心の中の山岡さん

 誰の心にも山岡士郎が住んでいる。人によって出現するケースと閾値が違うだけなのである。牛肉は国産の和牛しか口にしない、スコッチはアイラ島産のシングルモルト、それもシングルカスクしか口にしない、などという場合から、発泡酒は絶対に飲まない、豚丼吉野家しか認めない、モスはレストラン、マックは豚のエサ、なんて例まで。あるいは中国産野菜は汚染されているから絶対に口にしないなんて言わないよ絶対、なんていうのも山岡の出現だろう。出現しっぱなしの人は山岡士郎本人だから、見つけたら東西新聞社に連れ戻すといいと思う。
 私の場合、貧乏という大きな要因によって山岡さんはなかなか現れない。それでも、山岡さんが出てきてしまうケースだってある。その一つがショウガだ。文句を言いたいのはチューブ入りの練りショウガ。無論、100%ショウガ使用の高級なやつではなく、100円かそれ以下で売られている一般的なやつだ。同じシリーズでワサビやカラシは許せる。いろいろな混ぜ物があっても許せる。ただ、ショウガだけは許せない。あまりにショウガの良さがない。材料を見てみると、馬鈴薯とか混ざってる。あなた、ショウガの鮮烈な香りが、ジャガイモによって阻害されている!
 というわけで、私はショウガのみはきちんと買う。無論、中国産だから安い。ここに、他の人の中の山岡さんが食って掛かることは容易に予想できる。しかし、言われたところで「何、美味しんぼみたいなこと言ってんの?」と切り返せばよろしい。誰だって、都合にいいときに山岡さんを眠らせるのは簡単だ。我々は毎日いろいろな○○さんを眠らせたり、起こしたりして生きている。