絶対は絶対にない

 「本当に本当の話だけど、それだけの分量が終わらせられるのか?」と聞かれたので、この人は何を言っているのだろう、と思う。もしもできないと判断したならば、クライアントの電話を保留しているときに、俺は×印を出すはずじゃないか。よくよく話を聞いてみると、自分が「絶対にできる」と言わないことを不安に思ったらしい。そんな「絶対」に絶対の価値は絶対にないだろう。オッズと掛け金、確定の赤ランプだけが全てだ。シンボリルドルフだってギャロップダイナに差されるのが宇宙じゃないか。そんなことも知らない人がいて、人間の世界が運行されていたのか。
 ……絶対というのは、あらためて見てかなりの言葉だ。対を絶つのである。二を一にする。絶つというからにはAかBかでどちらかしか残らないということだろうか。あるいは、絶たれるのはAもBでもなく「対」という状態だろうか。いずれにせよ、残された一は孤独のように思える。絶対は漢字二文字だけれども、西洋的な印象もある。絶対王政、絶対君主、絶対温度、絶対者……など。科学と相性がいいようだ。科学の世界には絶対がある。絶対の世界が科学ともいえるだろうか。