『堕ちた天使』ザ・ポーグス

堕ちた天使
 「ニューヨークの夢」がラジオから流れてきたのは、たぶんクリスマスのころだったんだろう。レロレロな酔いどれ感がすてきだと思って、すぐに調べて名前をメモした。「the pogues」。
 その名前を次に見たのは、清水成駿の公式サイトだった。競友の渡辺芳徳(今は連載していない)が、競馬ファンの魂に響くミュージシャンとして紹介していたのだ。これはもう、買いの一手でしょう。
 そんなわけで、ベスト盤よりベストという評価も散見され、「ニューヨークの夢」も収録されているこのアルバムを買った。買って、入れて、再生した。再生して聴いたメロディ、俺が思い浮かべたのはファミコンソフトの「東海道五十三次」だった。
 いや、俺はたくさんファミコンソフトを持ってるスネオみたいなガキだったが、「東海道五十三次」は無かった。別にメロディを知っているわけではない。ただ、そういう印象がしたのだ。いや、別に「東海道五十三次」でなくていい。日本古来のお祭り的な、そんな調子に聞こえたのだ。ポーグスのバックボーンはアイルランド民謡というが、なにか通じるところあるのだろうか。

 だが、ちょっと待ってほしい。競馬の話をする。この二曲目のタイトル、「ボトル・オブ・スモーク」、競馬ファンとしては「ボトルオブスモーク」と書きたい。馬名だからだ。もう、単にボトルオブスモークに賭けて、二十五倍の穴馬券当てて、最高のくそったれ気分になってるって歌だ(審議になったが、先にブックメーカーから払い戻し受けたとかいう内容もあるが、そのあたりの仕組みはわからん)。歌詞は次のごとくだ。
http://www.lyricsfreak.com/p/pogues/bottle+of+smoke_20109729.html
 いいよねえ、馬券当たれば「The day being clear」で「The sky being bright」だ。「my horse won」で、しまいには「I'm happy as the horses shite」だ。shiteってのはshitの上品な言い回しで下品な言葉らしい。いいよなあ、ここまで馬券当てた喜び爆発させる歌ってのは。ほとばしっとるよね。ただ、こういうのって、これが単勝馬券だから成立するものであって、馬連どころか三連単時代の現代日本には生まれにくいかもな。JRAも「私が好きな馬が今日も走っています」から一歩進んで、単勝馬券とりあえず買えって初心者を誘導すべきだと思うが。いくら三連単の高配当煽っても、なかなか当たらないんじゃ、定着しねえよ。

 だが、ちょっと待ってほしい。ポーグスの話だった。メドレーの最後、Galway Races。
http://www.mp3lyrics.org/p/pogues/medley/
 Galwayはアイルランドの中でもとくにアイルランド的な都市ということらしい(http://en.wikipedia.org/wiki/Galwayhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4)。それで、日本語版のウィキペディアには説明がないけれど、競馬開催が一つの大イベント(http://en.wikipedia.org/wiki/Galway_Races)。この歌は、それを歌ってるんだ。いろんなところから人々が集まってきて、競馬するわけだ。

There was half a million people there
Of all denominations
The Catholic, the Protestant, the Jew, the Presbyterian
Yet there was no animosity
No matter what persuasion
But failte hospitality
Inducing fresh acquaintance

 failteはゲール語でウェルカムの意味か。そう、そこにはカソリックも、プロテスタントも、ユダヤ教も、プレスビテリアンもない。Yet there was no animosity。憎悪もない。みんな裸だ、裸のアイルランド人だ。裸の人間だ、ゲーハーだ。いいなあ、競馬。

 というわけで、競馬ファンにおすすめ、ポーグス。ただ、はっきりいって、何歌ってるかわからんです。俺だって中学生のころから洋楽聴いてきて、Weekend Japanology(そういや、このアルバムの解説はピーター・バラカンだった。この人も複雑な血統背景と異邦人として日本にいるあたりが、ポーグスへの共感に繋がってるのかもしれない)だってそこそこ聞き取れるような気がするくらいの勘違いを自負するくらいだが、まあ、見事にわからん。でも、そこがいい。言葉なんかわからんでも、音楽や競馬はなんか通ずる。ともすれば、この日本人がアイルランド人の悲哀に打たれることもあるかもしれない。ディバイン・コメディ(id:goldhead:20060223#p5)の「London Irish」や、「Sunrise」の意味がわかるかもしれない。

 一応検索かけてみたら、84年アイルランド産の「Bottle of Smoke」号がいる(http://www.pedigreequery.com/bottle+of+smoke)んだけれども。年代的には合うが……。