『千のチャイナタウン』海野弘

ISBN-13:978-4845703289

もし私たちが与えられた都市空間に満足せず、それを超える想像力を持っているかぎり、また、都市において差別されたもの、異人がいるかぎり、チャイナタウンはつくりだされるのだ。

 職場の本棚にあったのは知っていた。ふと、「そういえば中華街の近くじゃないか」と思って手に取った。ぱらっとめくると、金子光晴の章があったので、持って帰ってその晩にざーっと読んだ。
 アメリカのチャイナタウンの歴史。遠く本国から影響も受けたりする抗争から、ハードボイルドそのままのストーリー、酒場で語り継がれる小さな伝説。そして、魔都、迷宮を描いた数々の小説からの引用。なるほど、なんかチャイナタウン気分に浸れるな。なんとなく、最近ちょっと、ウィリアム・ギブスン読みたいなとか、そういう気になってて、そんなあたりも思い出した(スプロールが中華っぽく思い浮かべられるのはなぜだろう)。ダシール・ハメットは一冊読んだきりだな。
 後半は上海。金子光晴はここだ。「金子光晴においては、上海の頽廃と自らの頽廃は一つのものである」と。当時の上海には競馬場があった。日本から流れついた連中も競馬やってた。いつの時代も。J・G・バラード。『太陽の帝国』は映画で見たことある。上海生まれのSF、なのかどうかわからないが、いつかあたってみよう。
 横浜中華街。この本に書かれている中華街のイメージはあるだろうか。ぎっしり詰まった飲食店、飲食店、飲食店。裏路地に入っても飲食店。という印象。あやしげな漢方薬屋、あったっけ? 売春宿、見あたらない。阿片窟、あるわけない。ここにもトンの抗争があったのだろうか。トリアドは? 知らない。わからない。俺には嗅ぎつけられない領域。明るいところしか見られない。とにかく明るい。早朝通りがかると、ゴミだらけだ。俺の知らない、夜の夜、何かあるのかチャイナタウン。店じまいがやけに早いのはそのせいか。俺には知るよしもない。