さあ、こうして俺は過ぎていくわけだが

 形もなく、匂いもなく、ちょっとつまんでポケットに入れておくこともできないもの。適当な名前をつけて切り分けて、分かったような気になっている人間のこざかしい知恵。最終電車の末尾2007年、この本年。時は途切れず流れていくからえらいものだと独りごちてみて。
 時が過ぎゆくとか勝手に言ってるのは俺なのだった。年末に適当な感慨にふけっているのは俺なのだ。時が流れようと思ってるという話はきいたことがない。地球が何を考えているかどうかわからないが、回っているのはやつで、俺は回していない。
 春が来ないというのであれば、俺が春を来させていない。俺が春に行ってない。地球は勝手にやってるのだ。俺が、何も、変わろうとしないで、関係なく時間が過ぎたのであって、俺はやり過ごしているだけなのだ。進んでいるのは時間だし、回っているのは地球だし、芽吹くのは土中の草、花ひらくはグラジオラス。
 俺は参加していないマラソン大会。俺の肉体は俺の知らないところで老いたりしてみているかもしれないが、俺は取り残されている。取り残されて、何もしないで、テレビなどつけて、叶姉妹と姉の父のこと。精神が活動したか、年輪に何が刻まれたのか。
 それでもやっぱりその場で姉の代わりに傘でぶたれる妹はけなげだなと思う。人が機械の体を得ても、そういう心は大切にしなければいけないと思う。もし僕も将来サイボーグになったとして、鼻だけは、鼻だけは殴らないでほしいと思えるような人間になったとして、やはり鼻を殴られる覚悟で子供たちを育てていく、その心意気が評価されるのだと思う。とても気高いもの、裏庭に忘れられたプラスチックのスコップ。しかし、僕はただそれによって、ただそれだけによって傷つき、うちひしがれて、戦う前から負けてしまうような男になった。
 右を向いてみろ、メモ取れよでくのぼう。マクロの網がミクロの思いを通過させるとき、網元は若い漁師の若い妻を手込めにする。人類発祥から八千万例。人間が同時に同じ所から生まれないからいけないのだ、人類発症。
 冬の海を見てほしい。大きく息を吸い込んでみるべきだ。潮の香りに含まれる無限の思想、生命の息吹。カモメが不規則な軌道を描いて、くるりと反転する。君の口から漏れた空気は天へとのぼることなく、寒風が持ち去ってしまう。択捉島午前零時。オナホール職人の朝は早い。