宿痾あるいは週末に風邪をひく病気

 4月に入ったころから睡眠の質が落ちた。その結果、睡眠時無呼吸症候群者らしい、深く、強烈で、抗いがたい眠気に襲われるようになった。俺はとっくに睡眠時無呼吸症候群者の診断を受け、その対策として睡眠用マウスピースを処方されている身であって、とうぜんずっとマウスピースを使ってきているのにだ。そのマウスピースの威力たるや笑えるほどよく効いていたのだが。
 むろん、人間の身体というのは変化する。マウスピースを作った時点とその後で、まったく同じ顎の形や喉の形を維持し続けることはできない。合わなくなる、ということもある。が、しかし、その対処というのは市大病院の予約をとるなどという面倒な手順を踏まなければならない。
 それより前に気になることがあった。鼻が詰まっているのではないか? これである。鼻詰まりといっても、あからさまなものではなく、奥のほうで少し通りが悪い感じがしないでもないかもしれない、というていどのもの。日中はまるでないといってもいい。そうだ、俺は小さいころにそうとう鼻詰まり気味のガキだったために、口呼吸の癖がついていて、いまいち鼻詰まりが気にならないというところがある。ただ、あからさまに睡眠時無呼吸症候群者になった今、それが睡眠の質を下げているのではないか。
 そして、さらに思い当たることがある。この季節の、風邪でもないのに鼻詰まりになるということ。すなわち花粉症の三文字だ。ひょっとすると、俺は夜に軽く鼻づまるだけの軽い花粉症であって、そのために睡眠の質が落ちて精神状態も悪くなり、毎年春くらいになると一層心の調子がぶっ壊れているのではないか?

 むろん、推論に過ぎない。自分のことなのに。しかしまた花粉症というと微妙に絡んでくるものがあって、ここのところの冬になると出る慢性蕁麻疹。これの対処として、俺はけっこう抗ヒスタミン剤を食べるのだ。そう、抗ヒスタミン剤といえば花粉症用に処方されるものと被るわけであって、それも微妙に効いていて、微妙な花粉症に気づかないでいられたのではないか、などとも。
 まあ、わかりはしない。しないが、対処しないわけにもいかない。というわけで耳鼻科に行った。以前、耳の中に異音があると感じたときに診てもらった医者である。行く前は「以前診てもらったときの異音、あれは顎関節が出しているものでした」と伝えようと思っていたのだが、結局わすれてしまったが。

 して、自分の症状について上に書いたようなことを(春にメンヘルになる、というのは除く)伝えたわけだ。なるほど、では鼻を見てみましょう、となる。見てもらう。
 「なにも異常はありませんね、たいへんきれいです」
 幸か不幸か、診てもらったその瞬間、俺の鼻はスカっとしていた。どのくらいスカっとしていたかといえば、『冷たい熱帯魚』のでんでんくらいスカっとしていたのだ。まあ、お医者様のおっさん相手とはいえ、行く前に鼻くらいかむけどさ。ああ、これで耳に続いて二度目である。俺が医者なら「こいつのおかしい部位は頭だ」と考えるに違いない。心の病で聞こえない音が聞こえ、詰まってない鼻が詰まる。あるいは、なんらかの病気マニア。
 「とりあえず、点鼻薬を処方しますので、寝る前に使ってください」
 「はい」
 で、処方されたのがこれである。

 ナゾネックス……。俺はもう、これは偽薬に違いないと思ったね。なにが謎Xだ、中身はたんなる水。自称花粉症のやつのためのプラセボだろこれ。ふざけんな、今の時代はGoogleがあるんだ、一発でわかるぞ! ……って、わりかし新しめのステロイド入り薬品でした。やはり花粉症で処方されている人が多く、ネーミングに引っかかっている人もたくさんいるようだ。
 しかし、ほんと、今のご時世、偽薬ってどうやって処方するんかね? お薬の詳細の解説もあるし、ググればそれが偽薬であるとか、それが無いということすらわかってしまう。あと、費用のこととかも。って、それこそたぶん前にググってブックマークしておいたような気もする。まあいい。
 なんの話だったか。ええと、そうだ、睡眠改善のためにナゾネックスを打ちはじめて、それで一週間経ったか経たないかのうちに、いきなり喉が痛み出したんだ。最初は、ナゾネックスが鼻から喉に少しながれたせいかと思っていたのだが、どうも違う。それで、はい、なんというか、くしゃみやら熱やらで、風邪をひいてしまった感がある。金曜日のことだ。だったら、最初から風邪だったのかというと、そういうわけでもなく、その前々日くらいにはジョギングなど再開したところだった。さて。
 まあともかく、また俺は週末に合わせて風をひいてダウンしてしまったと、そのことをメモしておこうと思ったのだ。いつも週末だ。これはかなり確かな話で、俺は週末に限ってダウンする。ウィークデーにあまり会社を休まない。無意識の社畜ワンダーランド。いや、なんだかわからんが、たとえば神さまが日曜日に安息したのも、風邪をひいたのかもしれないし、世界はそうできているのかもしれない。どこにいるの神さま? ああ、見えないものが見える目がほしい!

(なにが本当の宿痾かといえば、1、2ツイートで済む内容というか、実際に済ませている内容をここまでだらだら長く書いてしまうことだろう。)