どちらかといえば日本は戦争に近づいたんじゃねえの?(嘘だろ?)

 どうも元ネタは信用に足るものではなく、デマの一種なのかもしれないが、それはそうとしてこれら記事の多くの人の反応について少し気になった。戦争どころじゃない、戦争なんかできっこない、なりっこない。果たしてそうだろうか、と。いや、「侵略」の二文字にひっかかっている人が多いのかもしらんが、しかしまあお互いに領有権を主張してる島があったとして、それが火種で戦争になりゃ、勝ったほうが「相手の侵略だ」っていうことになるだろ。そのあたりは、まあともかくとして、俺はむしろ、3.11以降、戦争的なものに近づいたか遠ざかったかといえば、近づいたんじゃねえかと感じている。ただ、ただちに軍靴の足音が聞こえるレベルではない。時計の針が0時のところにあって、それが59分の側か、1分の側か、どちらかに進んだかといえば1分の方へ動いたかな、というレベル。

バランスが崩れること

 まずはなんだ、足元がふらついたということ。いや、ふらつきなんかじゃない、大地が揺れて津波が襲ってきたのだ。さらには、原発事故のせいで、日本という国が著しくダメージを受けたのだぜ。ようするに、なんというのだろう、日本とその他の国の間でバランスが崩れるということだ。
 パワーバランス、軍事力の均衡、相互確証破壊、この世界の安定がそういったものの上でとりあえず成り立っているのは認めなくてはならない。むろん、たとえば米軍基地が一部の土地に押し付けられていたり、どっか貧しい人間にしわ寄せが行ったり、誰かが誰かを踏みつけた上で成り立っているもので、原発なんかもそうだけれど、それを安定と呼んでいいのかというのは留保しなきゃいかん。いかんが、是非はともかくいきなり日本が折れたら、なにか世界のバランスは少し狂う。巻き添えにして総崩れになるほどではないけど、影響がないはずがない。
 それで、なんつうのか、ちょっとしたきっかけから、いろいろ狂い始めることってあるじゃない。朝、ワイシャツ着ててボタンの掛け違いしたところから失業、自殺したおっさんとかもしるだろうし。だからなんだろう、「お、ちょっとどうなんだ?」ってロシアとか中国が偵察機飛ばしてきたり、潜水艦で泳いできたりする。あるいは、どっかの国の企業がここぞとばかり経済で日本のシェアを奪おうとちょっと強引な手段に出る。弱肉強食、そういうもんだろう。
 その結果、このまま日本という国、もとより弱り気味だった国が、経済的に転がり落ちていく可能性もある。好調な国よりも、不調な国の方が戦争に近づく。戦争になる、とは言わんが、どちらかといえば近づく。違うだろうか。国を人間に例えていいものか知らんが、どんなやつが宅間守秋葉原の彼になるのかという話だ。これからの日本、震災、原発につづいて終わりなき経済状況の悪化に突入することになるだろうし、弱いものがさらに弱いものを殺す社会になっていくだろう。弱いものが食うためにさらに弱いものを殺す社会に。まあ、地震と関係なく、そうなりつつあったと俺は思うのだけれども。

日本はこのまま転落、孤立していって、戦争とは言わんが、放射線汚染を盾に綱渡り外交する北朝鮮みたいな国になるんじゃないかとか感じている。

http://b.hatena.ne.jp/goldhead/20110413#bookmark-37865750

 むろん、いろいろの外国が今回の災害にあたって多くの善意をよせてくれていることに異論はないし、善意があるということは信じる。また、なんだかんだ言って第二次世界大戦以降、米ソ冷戦という巨大な爆弾が世界大戦という形で破裂しなかったという人類の実績も認めなくてはならない。また、経済のグローバル化というのかなんというのか、一種の運命共同体になっている現状もあろう。戦争なんか得ではないのだ(ホリエモンがそんなこと朝生で言って叩かれてたっけ)。だから、そんなに心配することはない。ただ、ちょっと小さな亀裂ができたかもしれない。そんなもの、軽く補修してしまえばいいのだ。
 ……けど、日本ってそういうやり取りとかあんまり上手じゃないよね。内心に不服を溜め込みながら言うことを聞いたりしつつ、いきなり「もはやこれまで」になるタイプ。俺はそう思っている。

日本は弱い国

 二つ目に思うのは、今回の危機によって日本人が日本の弱さ、はかなさ、そんなものへの意識を強く感じるようになっているのではないか、ということだ。あまり詳しくはしらんが、ナショナリズムのようなものは、己の国の強さや調子の良さではなく、弱まってるときに強いのではないかと。弱さのほうが、人の心情に訴えかける。違うだろうか。イーフー・トゥアンの『トポフィリア―人間と環境 (ちくま学芸文庫)』にこんな一節があった。

 愛国心には二種類ある。地域的なものと、帝国的なものだ。地域的な愛国心は、場所の親密な経験と、善いものは脆いという感覚に基づいている。われわれの愛しているものが、持続する保証はないのだ。

 イングランドは、攻撃を受けやすいほどに小さく、そしてまた脅威にさらされた時には、市民の間に感情的な関心が呼び起こされる程度に小さい近代国家の一例である。シェークスピアは、この種の地域的な愛国心を壮大にうたった。次に示す『リチャード二世』(第二幕、第一場)の一節では「種族」、「小宇宙たる別天地」、「祝福された地」という、ありふれた言葉に注意しよう。

この幸福な種族、この小宇宙たる別天地、
しあわせ薄くしてねたみにとりつかれた外敵の
悪意の手の侵入にそなえて、みずからを守る
城壁ともなり、館をめぐる堀ともなる、
白銀の海に象嵌されたこの貴重な宝石、
この祝福された地、この大地、この領地、このイングランド……
小田島雄志訳)

 俺はこれを読んだとき、日本という島国を思い浮かべずにはおられなかった。だから印象にのこっている。そしてたぶん、イングランドや日本に限った話ではない。たとえば、9.11以降のアメリカ人も、その国家の強大さというものよりも、テロリズムの一撃によって殺されてしまった無辜の同国人のはかなさに涙したのではないだろうか。あるいは、パールハーバーも。湾岸戦争朝鮮戦争やヴィエトナム戦争がどうだったかは知らんが、どうも9.11以降のアメリカはそこに走ったように見えた。陰謀論的に、誰かが戦争を画策したというのならば、そこにつけこんだ、と。おそらく、経済も人心も好調なときにいちいち戦争などしないのだ。もしするとすれば、ゲーム『シヴィライゼーション』の最終盤くらいだろう。アルファ・ケンタウリに行かせてたまるか、戦争だ!
 だから、ある意味、ACが「日本は強い国」とか「すばらしい国」とか、その強盛大国っぷりを賞揚しているうちは逆に安心だ、というところもある。むしろ、「日本は弱い国です。こんなに大変な目にあっても、けなげに頑張っているのです」とやって、その後、「それなのに××国や世界の仕打ちはなんなのでしょう?」と来る、このコンボがやばい。強烈。そこに掻き立てられるナショナリズムのようなものは、そうとうに威力があると思う。少なくとも、俺には効く。
 だから、ナショナリストはそのあたりを利用するべきなんだろう、たぶん。というか、ある種の排外主義、たとえば「在日が日本社会を支配して、弱者である日本人が虐げられている」とか、「今の民主党内閣は強国中国の言いなりであって、その結果、弱く善良な日本人が不幸な目にあっている」とか、お決まりのロジックではあるか。あるいは、太平洋戦争前の日本人も、彼我の国力差くらいはわかっていて、その上で「もはやこれまで」になっていった面もあるのではないか。
 それで、この度の大震災においては、実態のないあやしげな陰謀論ではなく、災害とそれによる経済的ダメージという、目に見える形で日本は傷ついた。自然相手では怒りの向けようはないし(長渕剛は向けていたが)、原発については東電とか、あるいは政府とかいう身内への視線だが、それがどこかに向かったら? 普段は軽い冗談のジャブでも、肋骨が折れたりしていたらかなり痛くてマジギレするかもしれない。たとえば、「この時期に竹島のこと言うのかよ?」みたいな気持ちになりはしないか。そういう気持ちになる人もいるかもしれない、とは言わん。俺はちょっとそうなった。
 あ、俺はブランキやバクーニンプルードン大杉栄に惹かれるし、いずれ国家などというものは解体されるべきというアナキスト的理想、人間やがてはただ自然法爾の中に起居するようになるべきだという禅的な終局に囚われているわりには、なんかけっこう右翼なのだぜ。いざというとき、どっちに鉄砲向けるかわからんので。……とか言いつつ、最初にぶっ殺されて印旛沼に埋められるタイプ、という話も何度も何度も書いてきて、あまり受けがよくないので繰り返さないが(って、繰り返してる)。

じゃあ何度でも何度でもおいらに言ってくれよ

 と、以上の二点によって、どちらかといえば戦争に近づいたんじゃねえの? と思う次第だ。グンクツの足音かよ、と一笑に付してもらえばそれでいい。むしろ、その方がいいだろう。言うまでもないが、俺は徹頭徹尾の悲観論者であって、不幸嗜好症の人間だ。屁のにおいをガスと勘違いして騒ぎ立てる嗅覚の壊れたカナリアだ。だから、何度でも何度でもおいらに言ってくれよと、今回注目されたRCサクセションの、忌野清志郎の例のアルバムからそんな歌詞を引用して終わる。ちなみ俺はRCの『カバーズ』が大好きだ

感じねえかよ この嫌な感じを
一度くらいは テレビで見ただろ
ボタンが押されりゃ それで終わりさ
逃げ出す暇もありゃしねえ
見ろよそこの若いの よく見てみろよ
びくびくするのも 当たり前さ

狂ってきたこの世は騒がしいぜ
こんなところからは逃げるに限る
一週間ほど宇宙旅行
でも戻ってくる場所はもとの故郷
進軍ラッパが闇の中にひびく
潜水艦がジェット機が国を取り巻く

でもよ 何度でも何度でも
おいらに言ってくれよ
世界が破滅するなんて
嘘だろ 嘘だろ

カバーズ

カバーズ