『刑務所の前』第3集/花輪和一

刑務所の前 第3集 (ビッグコミックススペシャル)
 別件でAmazonを見ていて、発売を知る。購入履歴、これに興味のある人はこんなものも買っています。俺がまったく情報収集のアンテナを立てていなくても、Amazonはちゃーんと俺好みの本を把握しておいてくれる。人によってこの手の仕組みに関する好き嫌いはあるだろうけれど、俺は素直に好きだ。インテリジェントの偽物っぽさがなんとも言えないからいい。本物っぽさがなんとも言えないからいい。

 以前わが家には、私の声と意図をほぼ完璧に認識する非常にインテリジェントなビデオデッキがあった。番組名を告げるだけで録画できたし、場合によってはわざわざ頼むまでもなく自動的に録画してくれそうなこともあった。ところがある日突然、わが息子は大学に進んでしまった。
ニコラス・ネグロポンテビーイング・デジタル』

 『刑務所の前』の特徴は三つの場面集が混在していることだ。場面切り替わりを示すなにもなく、真正けん銃の修復を行っていたかと思えば、次のコマでは因業と救いをめぐる時代物となって、ふと気づくと拘置所の中の話だ。シームレスに疾走していくジェットコースター。ただ、それがシュールな実験漫画にまったく見えないところがすごいのだ。闊達自在に描かれた、確かな物語に触れている感じがするのだ。これが、ひょっとしたらある種の照れ隠し的なものの上に築かれたものだとしても、どえらいものになったとしか言いようがない。俺がこの漫画の中で好きなシーンはだいたい百個くらいあるんだけど、その中にP211ページの護送車の中のやりとりがあって、官に「マンガ家なら描けばいいじゃない。こういうことをさ」って言われて、「えっ! 描いてもいいんですか!」/(何だ描いてもいいのか。)/でも、どう描けばいいんかな?/冬の日ざしがまぶしい。/ってとこでさ、こう描いたんだなって。ようわからんけど。
 とはいえ、濃密に描かれた絵ばかりでなく、ちょっとした文字のもうほんとに細かいところまでサービス精神にもあふれていて、もちろん人間のやりとりのおかしさ、ギャグも健在。それでもって、ガンマニア心全開なところもしっかり。これはかなり多くの人に楽しめる作品じゃあないのかなとか思ったりするのだけれど、どうだろうか。
 ……とか言いつつ、本業(?)である因業ものは全然読んだことがない俺なのだった。いや、アフタヌーンを読んでいたから、『天水』に触れていた可能性がある。そうだ、「アフタヌーンの漫画家が銃で逮捕」と聞いて、「園田健一じゃないか?」とか友人と話したっけ(そう思うのもしょうがないよね?)。まあ、それはともかく、いずれは『天水』あたりから過去の作品に入っていこうか。その、正直、そっち方面の漫画はあまり今まで読んだことがないのだけれども、しかし。