こもれびの咲く夜

 このごろ夜の山下公園で、お星さまの形をした人工太陽が星形の木もれびを作っていて、虫取りあみで星を捕まえている人たちがいる……というので、どんな稲垣足穂かと出かけてみたら、なにやら木の下に人影が。そのまま近づいていくと、列に並んでくれというので海の方を見れば大行列。「時間かかりそうですよ、やめましょうか?」と同行者に積極的に消極的提案するも、「ちょっと並んで様子を見ましょう」というところに落ち着く。一度並んでしまえば後ろに連なるひとびとの列に、妙にケチな気持ちが芽生えてきて並びきるのは必定。三十分以上並んでようやく虫取りあみを渡される。二言三言言葉を交わしたところによると、人がきてくれるかどうか不安だったということで、この行列想定外で責めるわけにはいくまい。
 木々の下に入るまえに説明があって、普段われわれが見る地面の木もれ日は太陽の形をしているという。葉と葉の重なり合いが作る小さな隙間をピンホール・カメラの要領で光が通るからだという。大前提として、木もれ日が円形をしていたことを初めて知った俺であって、そこで星形の人工太陽を用いて星形の木もれ日が生じさせるというのはたいそうな発想と驚く。
 して、木もれ日の星めらは、でこぼこの地面にうっすらと重なり合って見えていて、人工太陽がくるくると回転するにしたがってさざなみの模様を作る。白い太鼓のようになっている星とりあみに映してみれば、今度ははっきりと姿見えていろいろと位置や角度を変えてみては、なるほど虫取りの子の虫取り網を振り回すのによく似ている。

 また、地面に真っ白な丸い台が置いてあって、皆がそれを取り囲んで手をかざしている。真っ白で真っ平らな台には影が色濃く落ちて、指と指の小さな隙間をピンホールとしてはっきりと星形が見えるという算段、この奇妙な影絵もまた面白い。

 入場には待たされたが、入ってしまえば時間制限無く心ゆくまで遊べるのが楽しい。そもそも夜の健全な遊びというシチュエーションというのも何かひさしぶりだ。たまに犬の散歩など事情を知らずに近づいてくる人がいて、それもまた列に並ぶように誘導されるが、そこらあたりは大目に見て見ぬふりして、適当に人が集まるようなのがいいようにも思えるが、何らかの事業、それも公園を借りてトラックからアーム伸ばして高所から光照らすような仕掛けつきでは、来客のカウントなどしなくてはならんといったところだろう。ほんとうは、こういうのはふらっと偶然立ち寄れるとか、いっそのこととくに告知もなく常設してまえばたいそう面白いと思うが、まあそうはいかんだろう。
 いずれにせよ、ちょっと神奈川新聞見て休日出勤の帰りに立ち寄って予想以上に楽しめてよかった。帰りは中華街で麺ということになって杜記。夜も遅めで客も少なく、俺は席に着くやいなや「五目」とおばちゃんに告げる。それでようやく俺は五目麺食えたというあんばい。
 
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