脱皮したてのセミを見る

 夜二十三時過ぎ、人の家からの帰宅途中、脱皮したての白いセミを見る。俺はそれほどネイチャー志向で生きてこなかったので、セミの脱皮はもちろん、こんなセミを見るのははじめてだった。カメラを持っていなかったので、できるだけ刺激しないように距離をとって、ケータイで撮った。
 白く、やわらかそうだった。あの昼に飛び交うセミの、固くて、乾燥していて、パリパリ、バタバタしている雰囲気とは大違いだった。まだやわらかい生き物。脱皮というより、孵化という言葉がしっくりくるように思った。白い羽根が、風にそよいでか、自らの意思かで、微かに、息づくように動いていた。
 そのまま色が変わり、飛び立つまで見ていようか? そうは思わない。俺は、この白い生き物が、なにか別の生き物に害されたりするのを見たくはなかった。そんなことにならないよう、「じゃあな」と言ってお別れした。エンドレスエイトは、セミが恩返しして終わるというのはどうだろう。