ぼくは紙のようなものでできていて、秋の道をとぼとぼと歩いて行く。
吹く風に髪は無造作、どこを見ても他人はいない。
すべてのものが黄金色に染まっていて、やがて赤くなって黒くなる。
ぼくは神のように無造作に作られていて、秋の道をとぼとぼと歩いて行く。
吹く風に髪をなぶらせながら、ぼくは紙のようなものでできている。
遠くからしゃらんしゃらんと涼やかな鈴の音がきこえる。
ぼくには忘れ物はなかったし、進むべき道もわかっていた。
ぼくは紙のようなものでできていて、吹く風にそよいでしまう。
すべてのものは寂光に包まれていて、ぼくは悲しい。
ぼくには忘れ物はなかったし、来た道もわかっていた。
進むべき道には轍が残っていて、先に行った人のことを思う。
靴底はすり減って、それでも足を引きずるように歩いて行くのだ。
空の上からしゃらんしゃらんと鈴の音が聞こえてくる。
秋の香りを含んだ風が、紙のようなぼくを包む。
道の向こうから秋の香りを含んだ風が吹いてきて、ぼくは悲しい。
すべての思い出は黄金色に染まっていて、一つ一つを取り出すこともできる。
ぼくは無造作な存在で、空の色彩に身をゆだねることもできる。
だれかが通った道だから、だれかの轍が残されている。
空を見上げても飛ぶ鳥はなく、足元にほかの生き物はいっさいいなかった。
黄金色の思い出はやがて濃いオレンジ色になり、やがては赤くなって黒くなる。
世界がこのようにあってほしいと、大それたことなんて考えたことはなくて。
無造作に作られた世界にため息をついて、ぼくは歩いて行く。
ぼくの足取りはとぼとぼと、とてもゆっくりだ。
耳を澄ますとしゃらんしゃらんと鈴の音が聞こえてくる。
だれかの笑い声がここに響いたこともあっただろう。
新しいできごとがあらわれたこともあったろう。
今やぼく一人が寂光に包まれている。
気配だけがそこにあって、遠くから鈴の音が聞こえてくる。
ぼくは紙のようなものでできているのを感じる。
吹く風に舞い上げられて、どこかに飛んでいってしまう。
必要のないものはすべて捨てられてしまった。
必要のあるものはすべて集められてしまった。
ぼくは紙のようなものでできている。
残してきたものはなにもない、自由になった。
なにも考えることはなくなった、悲しむこともなくなった。
そしてぼくは風に髪をなぶらせながら、また秋の道を歩いて行くのだ。
どこかからしゃらんしゃらんと、鈴の音が聞こえてくる。