書いては消し

書いては消し、書いては消し、べつに書く必要のあるでもなく、書いては消し、書く目的もなし、書きたいという気はあり、書いては消し、なにか違うぞと思うと、書いては消し、目的もなし、テーマもなし、書いては消し、書いては消し、冒頭を書いては消し、台詞から書いてみては消し、5分前のことを書いてみては消し、一生を振り返って書いてみては消し、伝えたいこともなし、わかってもらいたいこともなし、書いては消し、書いては消し、皿を洗っていたらかわいそうなことに蜘蛛を洗剤に巻き込んでしまったことを書いては消し、100円ローソンの青年店長につかつかと歩み寄った寿町系のおっさんが人間には聞き取れないスピードで大資本の支配について述べたことを書いては消し、書いては消し、一枚の写真で伝えられる写真もなし、ひとことで済ませることもなし、書いては消し、自転車のタイヤのことを書く気もなく、あなたに知ってほしいこともなく、ラジオからは同じ曲ばかりが流れて、自宅のパソコンの安いキーボードがギコギコ言い出したことを思い出し、秋の気配をふとした瞬間に感じたり、今年の8月は最終週が月曜はじまりで、この一週間にやるぞと宿題をためこんできた小学生がたくさんいるんだろうと思い、そんなことが言いたかったわけでもなし、書いては消し、書いては消し、印象的な光景がないと思い、光がないと思い、光がなくては書くべきことも見えず、書いては消し、書いては消し、電車の中でつり革につかまって立ってスマートフォンに夢中のおばさんのそのスマートフォンの背面のライトが点きっぱなしになっていて座っていた人たちが照射されていたとか、代ゼミの話題があるけれど河合塾の講師もおれが通っていたころには「この商売は長く続かないからみなでラーメン屋をやる相談をしている」と話していたことを思い出したり、忘れたり、キーの叩き心地はアップルのこれが一番いいんだと今この時のことを書いてみてもおもしろいわけでもなく、書いては消し、書いては消し、夏の間に蒸し野菜ばかり作っていたせいかフライパンがだめになってしまい新しいフライパンをさてどこで買おうかと思ったらドンキで十分だったり、野菜と肉は高いのにキノコ類は安さの叩き合いをしているように見えたり、書いたり、消したり、書いたり、消したり、やっぱり書いては消したり、あなたに伝えたい言葉はあるはずなのに、ぼくはあなたがだれか知らなかったりして、書いては消して、書いては消して、決して書いたりしないということもなく、書いて決することもなく、曇り空、百日紅の花はなんにも左右されずに咲き続け、咲き続け、咲き続ける。