午前中、会社をサボって、髪を切る

 朝からしょうもない気分だったので、「昼までに出ます」とメール打ってポケー。ポケーしながら『青い花』のアニメ見る。みんなのお泊まり編だ。井汲さんの母親のエピソードはばっさりカット。アニメ版の終わりを予告するような展開。そのかわりに、肝試しエピソード。というか、その前に、井汲さんの小さいころがかわいすぎて悶える。そりゃあ、許嫁も惚れるわ。それで、「百合」の花を取ってくるというなんとも直截的な比喩? よくわからないが、まあいいや。
 とか思いながら、シャワー浴びて、ぼちぼち出るか。あ、なんか本牧通りが呼んでる……行かなくちゃ。ということで、午前中の本牧、長い、永遠の商店街。髪を切ろう。
 少し大きめで中の見える、安い床屋を選ぶ。入ると三人散髪中、待ち人四人。繁盛か。テレビからテレビショッピングの音。どこかの通販チャンネルかと思いきや、テレビ朝日。遠山の金さん。大黒屋のあやしい商売。手元でケータイ麻雀アプリ。これはリーチせずにはいられないな。
 そろそろまぜろよ、けっこう待って俺の番。「どのくらいにしますか?」とおっさん。昔、予備校講師で「金ぴか先生」っていた、あんな感じ。マスクをしていて、ときどき咳をする。「五センチ」と、俺。「かなり短くなりますよ……!」とおっさん、「立つか立たないかくらいで?」。「はい、それで」と俺。内心、(えー、そんなに短くなるの? そういえば、そこまで長くなかったっけ、俺。つーか、五センチって言うのはじめてだろ。うわー、でも、今さら引っ込めるのも恥ずかしいだろ)と思う。Googleオリジナルレジャーグッズ欲しい!
 ばさばさぶった切られる俺の髪。ハサミのあたりはソフト。大黒屋にもぐり込む金さん。大黒屋に「お前さん、根っからのワルだねえ」と言われる金さん。ばっさりカット俺の髪。井汲さんは先輩に対して犬のようだが、康ちゃんに対しては犬のようなのかな、などと思う。ところで、あのメンバーで一番色恋から遠いというか、そこにいたっていないのは奥平さんなわけで、『青い花』を奥平さん中心に見れば、恋の目覚めというような内容ともいえる。やがて奥平さんが、色恋の前線に立つとなると、彼女の天真爛漫、初心なところが、また誰かを傷つけ、それで奥平さんが傷ついたりするのだろう。それは切ないが、しかしそういう痛みもあるのだろう。大黒屋、おい、そいつはお前の手下にするべきじゃない。そいつは、奉行だ。体制側の人間だぞ!
 シャワーの音に遮られて大黒屋に声は届かない。そして、丁寧な顔剃り。そういえば、カットのみでない床屋は久しぶりのような気もする。外の自転車は盗まれていないだろうか。「油つけますか?」とおっさん。「油マシマシ、ニンニク、野菜マシ」と俺。隣に次の客。若い男。ぶつぶつと注文を言う。何を言ってるかよくわからない。「すみません、大きな声でおねがいします」と言われていた。ああ、俺のように、はっきりと言わなきゃだめなんだ。
 出社。顔を合わせた瞬間、「髪がない!」と言われる。神さまなんてとっくにいない。