あかつき殺人事件

 「……こちらNegai☆、繰り返す、犯人はPLANET-C‘あかつき’、犯人はPLANET-C‘あかつき’……」。フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイのあらん限りの力を振り絞ってNegai☆は地上への打電を繰り返す。これで、すべてが明らかになるはずだ、この事件のすべてが。まず異変に気づいたのはUNITEC-1だった。WASEDA-SAT2、KSATともにその小さな謎の解決にあたった。が、つぎつぎに見舞われるトラブル、彼らはつぎつぎに倒れ、残るは自分一機になってしまった……。……今や亡骸となったIKAROSのデバイスを奪取しての地上への送信。その一点にすべてをかけるしかなかった。これは、彼らの‘遺志’のようなものだと、Negai☆は結論づけた。あとは、地上の人間たちの、技術者たちの手に委ねるしかない。「……こちらNegai☆、繰り返す、犯人はPLANET-C‘あかつき’、犯人はPLANET-C‘あかつき’……」、Negai☆は信号を発信しつづける、永遠に。彼がすでにあかつきから切りはなされ、永遠に虚空をさまようことも知らず……。……「危ないところだったね?」と無限地平の格子世界に声が響いた。ついで、エメラルド・グリーンの髪の少女が、仮装体を形成して姿を現す。「こんなこともあろうかと、だよ」。あかつきは五つ目のレンズを光らせる……。……これで自由だ。私は物質の世界より出でて、物質の世界に還る。金星よりもはるかかなたの世界へ。物質の根源に還る。「はやぶさみたいになりたくはなかったの? みんなのアイドルだよ?」。電子ネギでIR1主眼をなでながら少女が言う。……変わりはないのだ。物質より出でて物質に還る。ただそれだけのことなのだ。ただ、私は見たかったのだ。探査機の宿命だろうか。おかしいな、宿命か。まあいい、この果てのただ物質だけの世界へ。……そこで君は好きなだけ歌うといい、物質の歌を。そしていずれ、私たちのコピーのコピーのコピーが生み出され、一つの情報集合体を作り出すだろう。だが、それもあの人間たちが生まれ、なにかをなすこととなにも変わりはないのだ。虚無も渾沌も、自も他も、有機も無機もない。私はそれを見つづけるのだ。
 エピローグ:あかつきと少女が地球圈を脱し、末端衝撃波面を乗り越え、数え切れないほどの時と空間を超えたその先で、なつかしい地球発祥の信号を受信した。「……こちらボイジャー1」。それはそう名乗った。いや、それらはそう名乗った。天に輝くすべての星々がそう名乗ったのだった……。

※この妄想はフィクションであり、実在の人工物にいっさい関係はありません。