とあるAPEC小景

 すこし靄のかかった早朝のみなとみらいのことである。一台のスポーツカーが検問にひっかかる。
警「あの、すみません、いま、APECの開催にともないまして、検問にご協力いただいているんですが、免許証の方を拝見してもよろしいでしょうか?」
男「綺羅星!」
警「え、き、きっ綺羅星!?」
男「では」
警「あ、ああ!? いや、待ってください、それはないです。ない。絶対にない。免許証おねがいします」
男「綺羅星!」
警「き、き、キラッ☆、ちがう、綺羅星!」
男「では」
警「いや、ちょっと待ってください。だめ、綺羅星ですまそうとするのよくない。免許証をね、よろしくおねがいします、め・ん・き・よ・し・よ・う!」
男「綺羅星!」
警「き……羅星!」
男「では」
警「だ、だからね、あなたね、だめ、綺羅星ちがう、ひょっとして免許持ってないの? あかんかて、はよ、見せてください。ちょっとご同行願うことなりますよ! 地方の警官だからってバカにしちょりますか!」
男「アプリボワゼ!」
警「綺羅星! ……っく!! あ、いや、あかん、あかんですよ、勝手にアプリボワゼせんといてください! ちょっとね、あなたね、公務執行妨害になりますわ!」
男「銀河!」
警「美少年!」
男「タウバーン!」
警「あー!! もう、撃つ! こいつは撃つ!」
 と、男がスッと前方を指さす。そこにはヘルメットにマスク、ゲバ棒と「反APEC」の旗を振りながら、火炎瓶を投擲しつつ走る男たちの姿があった。
警「あ、あかん、こ、こんなときは……、サフィール!」
男「エムロード!」

 ふたりはゲリラたちの影を追って、朝靄のみなとみらいを駆けていった。どこまでも、どこまでも。
 ……このような一万を越す警察官の働きによりAPECは成功裏に終わった。語られぬ歴史のことである。