劇場版『ストライクウィッチーズ』は最高だった〜だが、宮藤は飛ぶべきだったのか?〜

昨夜、こんな夢をみた

 薄暗いお堂の中、私は燈火一本向こうのひとりの老僧と対面していた。私はおもむろに内なる苦悩を打ち明けた。
 「わたしは常々『ストライクウィッチーズ』に心酔していることを喧伝し、そのすばらしさを賛美することに限りありません。しかし、そうでありながら、一方で、一体全体『ストライクウィッチーズ』がほかのいろいろのアニメ作品と比べて、どこがどう良いのか説明することができないのです。もっと映像の美しい作品、戦闘シーンの激しい作品、キャラのかわいい作品、ストーリーの優れた作品もあるかもしれない。ひょっとしたら自分は『パンツじゃないから恥ずかしくないもん』という「ストパン」の異常さに悪乗りしているだけではないかと、不安になることがあるのです」
 老僧はこう答えた。
 「なんと、わしもそういう疑念を抱いていたが、おまえもそうであったか。しかし、よくよく考えてみるに、そうでありながら『ストライクウィッチーズ』に対して深い思いを抱けるということは、ますます『ストライクウィッチーズ』がすばらしい作品であるということの証ではないだろうか。そもそも、凡夫たるわれわれがあれこれと理屈をこねたところで、そんなものにいかなる真が善が美が含まれていようか。いくらわれわれが多くのアニメを見て、文献に学び、言葉を積み重ねたところで、そんなものは薄っぺらに虚妄にすぎないであろう。もとよりわれわれが何事かに真に心酔するところに、羊の毛一本ほどの自力が含まれているのだろうか。それよりも、『ストライクウィッチーズ』の持つ無限の魂がわれわれをすくいとってくれたのだと、そう考えるべきではないだろうか……」

まあ、そんな夢は見なかったのだが

 劇場版『ストライクウィッチーズ』を観に行った。行き先は川崎のTOHOシネマズ。舞台挨拶回が取れなかったのがしゃくなので(取れなくて当然なのだろうが)、海老名に行こうかと思ったが、せめて福圓さんと名塚さんの現れるであろう建物の方がよいかと思い、川崎にした。ららぽーと横浜でもやる予定だが、なんと上映は未定である。
 感想を書く。
 総論から言えば 「せめてストライクウィッチーズの映画までは生きていよう」というような、半ば冗談めき、半ば真実であるような、そんな過剰な期待に応えてくれた。もう、それだけいえば充分だろう。公開前のインタビュー記事で、ルッキーニ役の斎藤千和さんが「口元がニヤニヤするからマスクをつけて!」と言っていたらしいが、俺はむしろ涙腺のほうがあぶなかった。まあ、俺は風邪の予防と画面への集中のため言われなくてもマスクしてたが。
 いや、そんなんどうでもいいのである。映画館の、大きなスクリーンで、ズボンが、股間が、いや、それもあるが、おそらくは非常にこだわりのあるであろう爆音をともなった迫力の空戦シーン! お姉ちゃん! 赤ズボン隊! いや、もう、見ろよお前、そこのお前。ハイデマリー好きだろ? いや、これを目にしたやつは全員見ろ、わかったか!

宮藤は空に還るべきだったか?

 ※以下、ネタバレは気にしないので。

 しかし、正直に言うと、俺にはひとつ不安があった。『オフィシャルファンブック』などを読むに、高村和宏監督が、宮藤芳佳をふたたび空に、戦場に戻すことがいいことなのかどうなのか、そんな迷いがあったんじゃないかと思っていたことだった。講演会で第2期の終わりについてこう語っている。

「あの終わり方を選んだのは、宮藤のためを思ってです。戦場で戦い続けることが宮藤の幸せなのか、ウィッチより、医者になり、人々を助けるほうが幸せではないのかと」(高村)
p.117

 ひょっとしたら、1期の終わりでそれが訪れていたのではないか、などとすら俺は思ってしまっていて、さて、「還りたい空がある」と題された劇場版で、果たしてその思いはどうなるのか……。と、宮藤が空に戻るかどうか事前にはわからん。おおまかなストーリーでは、欧州に医学留学へとあるだけで、撃墜マシーンの新宮藤に改造されるというような話ではなさそうだった。
 結果としてどうだったろうか。これはもう、監督が考える理想の宮藤を完全に描ききったと言えるんじゃないだろうか。1期のオフィシャルファンブックの座談会で、終盤で脚本の浦畑達彦さんが軍規違反することについて「宮藤、かわいくない」と言って、監督が非常に落ち込んだというエピソードが紹介されていた。

浦畑:いや、僕がいいたかったのは、宮藤は決して「正しくはない」ってこと。
鈴木:うん、正しくはないんです、あの子。
浦畑:宮藤の行動は「正しくない」けれど、みんなが宮藤を応援したくなる。そうならないとダメなんだってこと。みんなが「正しくない宮藤を応援したくなる」には、もっともっとかわいくしないとダメなんだって話をしたわけ。
鈴木:でも、高村さん、すっげーヘコんでた。
高村:僕は、宮藤をかわいいと思って、ずーっとつくってきたんだけど、否定されたもんだから、自分の感覚が間違ってたのかと思ってしまったんです。
佐伯:たしかに、すっごくヘコんでたよね。
高村:宮藤は主人公なんで、主人公がかわいくないとお話しにならないですから。やっぱり、宮藤に関しては、自分が考えている「理想の女の子」を映像化したって気持ちがありましたね。とにかく一生懸命がんばる子を主人公にしたかったし、そういう子を主人公にすることは間違ってないと思っていたんです。何かに流されるような主人公っていうのは絶対にイカン! と。

 繰り返すが、第一期の話である。ここのところは読んで非常に印象深かったところだ。そして、今回の映画はといえば、ここで語られている宮藤がそれはもう、存分に、完全に、完璧に、いや、川に流されたりはしてたけど、ともかく、宮藤の「かわいい」が描き尽くされていたと、そう感じた。もちろん、ここで言う「かわいい」は単に表面的なものでないことは説明するまでもないだろう。
 そして、すばらしい劇場版のパンフレット(終演後、映画館のスタッフが「ストライクウィッチーズのパンフレットを……」ってなんか客に呼びかけはじめたので、「シネマ・ジャック&ベティかよ!」とか思ったら、「間違ってスターウォーズのパンフレットが入っている可能性があるので、今すぐお確かめください!」とかいってて笑えた)にそれを裏付ける発言があった。

鈴木:高村監督が一番気にしていたのは「501の物語は終わっていないけれど、ただ宮藤の物語は一度終わってる」ということだったんですよ。

 おお、やはり、と。また、浦畑も同じスタンスであったという。しかし、鈴木貴昭島田フミカネ両氏は、そうではなかったと。このあたりの緊張感が、なにか映画をよいものにしたのではないか、などというのは考え過ぎか。そして、それを反感を持って見る新キャラ服部静夏の視線、関係、これがずっぽしはまっていて、非常にいい感じになってんじゃないのか、対談でも語られているが。
 まあ、そのへんわからん。わからんが、ともかく劇場版では魔力を持たぬ、ウィッチではない宮藤が、それでいてなお「正しくなくとも応援したくなる」という一生懸命の姿を見せてくれるのである。変わらぬ内面の強さに加え、なにやらやたら男前とも言えるくらいの行動力! もう、どれだけ宮藤のすばらしい、いくつもの顔があったことか。俺はこの作品について特定のキャラがすごい好きというのがないくらい皆好きなのだが、今回の、この映画は宮藤の映画であって、宮藤がかわいかったと言うよりない。ファミリーマート一番くじで当てた宮藤フィギュアに毎朝手を合わせたくなるくらいの心持ちである。
 で、ネタバレになるが、やはり宮藤は飛ぶのだ。そこのところで、己のストライカーユニットである震電に触れる、あのシーン。あれがなんというか、『ストライクウィッチーズ』のミリタリー面のロマン全開というところであって、たまらんのである。むろん、行方知れずの父の残したものという背景はある。あるにしても、あのメカへの愛、心で握る操縦桿、いや、操縦桿はねえんだけど、そこんところもよかった。あの呼びかけ連呼に加えてやばかった。戦場にいるのが本分ではないかもしれない、ただ、大切な仲間、友だちがいるという、仲間と一緒にオーバースカイ、そこんところで、ウィッチに不可能はないっ! ってさ。
 でもって、あのラストだぜ。もう、おい、早く、早く、暴動起こすぞ、くらいの心境である。ただ、一方でやはり宮藤は……というところもある。ただ、お姉ちゃんやミーナ隊長に比べればまだ若い。というか、ああなっちゃったんだからいいじゃねえか。そんで、はっきりともっさんがウィッチとしての第一線から退いてるところが描かれていたわけで、そこんところで継承の物語は紡がれていくのだし。けどなんだ、なんつーのか、監督が宮藤の魅力を描ききったという点では、なんかこの映画は映画として、完全新作として、ある意味でやり切ったな感があって、ある意味で『けいおん』の劇場版より劇場版だったぜって思った。
 ええい、ともかくずっと続けや『ストライクウィッチーズ』、角川書店の株主(単元未満)としても言わせてもらうぜ、お願いだぜ、あと、少なくともあと一回は絶対に劇場に行くし、二度目もあるかもしれないし、ああもう、もっと、もっとくれ、ぎゃー、うおー、とりあえず録画したの見なおすか。ああ、一期はレンタルで見たんだった、しまった、買うか買うのか? うぎゃー。おしまい。

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ストライクウィッチーズ Blu-ray Box

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ストライクウィッチーズ 劇場版  還りたい空 (角川スニーカー文庫)

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↑これ予約済み。
島田フミカネ ART WORKS

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↑グッズコーナーで売ってたけど、もう持ってる。ちなみに、パンツはさすがに買えなかったので、下敷きとパンフだけ買った。ほかのグッズは見当たらなかった。

映画メモ______________________
 今年映画館で見た映画は『恋の罪』『ヒミズ』『国道20号線』『サウダーヂ』『天皇ごっこ 見沢知廉たった一人の革命』に続き6本目。月2本くらいみたいとか思ってる。