MG5と祖父の思い出

 茶髪にピアス、不精ひげのサラリーマンである俺とて、不精でない部分についてはすばらしい貝印のカミソリを使うし、使ったあとの肌のお手入れくらいはするというものである。なにでお手入れをするかといえば、そのときどきに安く売っている適当なアフターシェーブローションやシーブリーズなのだけれども、先日ふと目に入ったMG5を買ってみたりした。
 この市松模様、祖母の部屋の鏡台で見たような気がする。おそらくは、祖父のものなのだろう。祖父はパーキンソン病を患い、俺が物心つくころにはほとんど家の外に出ることすらなかった。現役時代は、京大出の化学博士のサラリーマン研究員として、戦後のわりと早い段階からアメリカに出張して仕事していたし、いろいろの社交の場に出ることなどもあったのだろう。それを捨てられずにとっておいたのだろう。
 そういえば、祖母に米国人との会話でとりあえず時間をもたせられるネタというのを小さいころ聞いたことがあった。曰く、紙に漢字の「木」を書き、これがtreeであるといい、次に「林」、その次に「森」となると説明するという。結局、俺が米国人とパーティすることは今まで一回もなかったし、これからもないだろう。だいたい、「林」と「森」をどう英語で表現するかも知らない。
 と、ここまで書いておいて言うが、上に書いたことはMG5を買うときまでに思いついた話である。実際にキャップを開けて香りをかいでみて感じたことは第一に「床屋のにおい!」ということであり、次に想起されたのは今はなき実家の、祖父や祖母とはべつの、こちら一家の洗面台である。すなわち、MG5のなにかを使っていたのは、俺の父だった。wikipedia:MG5をみても、世代的にそうではないのか。なぜ、あの模様を見て祖母の鏡台を思い出したのだろう。まあ、そちらに置いてあった可能性もあるし、今となっては確認しようもない。
 して、買ってみたMG5はといえばヴィエトナム製であって、値段も手頃である。床屋のにおいというのを家で楽しめるというのも悪くなく、どうせならヘアクリームからなにからMG5シリーズで統一してやろうか。関内か関外あたりでModern Gentlemenの香りを放ちながらずったらずったら歩いている得体のしれんやつがいたら、それは俺なので、放っておくか金属バットで後頭部をぶん殴るかしてほしい。おしまい。

MG5物語

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