さて、帰るか。

 本日、荒天。零細企業ゆえにわりと帰宅命令も待機命令もなにもない。もとから人が少ないのに、一人ドバイに出張している上(競馬まったく関係ないです)、嵐の前に電車組は帰ってしまい、気づいてみたら俺ひとりだった。ラジオでカープ対読売を聴きながら(大竹おめでとう)、ひとり働く。ひとり働くというのは捗るのでわりあい好きだ。なにかひとつのことに特化した技術を持っていれば、フリーランスにでもなって生きていけるように思うが、残念ながらとっちらかったDTPやWebの技術の断片があるばかりでどうにもならない。黒魔道士でも白魔道士でもなく、中途半端な赤魔道士だ(ファイファン世代)。しかもレベルが低い。
 そもそも中高一貫とはいえ普通科高校を出て、文学部とかいう役に立たない学部に入って一般教養も終わらぬうちに中退してニートになってとくに職業訓練も受けず、いったい俺はなんなのかわからない。「ちょっとこのままでは」という誰かの原稿を、けっこうな早さで一応本屋に並んでも許されるんじゃないかというレベル(俺基準)の文章にリライトしたりもしているが、だいたい文章教室に通ったこともなければ、ライター修業をしたこともない。国語の成績がよかっただけだ。なんかよくわからないまま、専門的に誰かついて何かを教わることもなく(まあ、回避性人格障害っぽいので人と関わりたくないのだが)、体系的になにかを修めるでもなく、社会の底の方で行き当たりばったりの当て勘で糊口をしのいできただけだ。勉強してきたとか、スキルを磨いてきたとか、ねえよ? 当て勘だよ、その場、その場の。こんなもの、いつまで続くものかよ? 拠り所がねえんだよ。根っこというか、立つ瀬というか。
 というわけで、いきなりだが新社会人諸君、とくに新卒で大企業と役所に入った君らに言いたいことがある。頼むから俺より有能であってください。俺よりいきなり高給をもらい、ボーナスもあり、有給? メンヘルで休職できる余裕? 福利? 攻勢? 福嗣? ジャイアント落合? いや、俺は大企業や大きな組織のことはしらないけれども、ともかく恵まれているお前らが俺より無能であることは許されません。というか、絶対に許さないとかそういうんじゃなくて、お前らが俺より無能であることはありえません。大学をきちんと出て、就職戦線を勝ち抜いたエリートとして、まちがっても無能さで俺を煩わせないでください。こっちは元より失うものはないから、「下請け」や「業者」であっても、契約以上の子守りはしません。
 ……と、以上、ルサンチマンと嫉妬と意味のわからない優越感、劣等感のアマルガムを吐いてみましたが、吐いたガム拾って食ったらダメージ食います(ファイナルファイト世代)。いや、シンプルにコンプレックスといえばいいのか。つーか、30過ぎのおっさんが何いってんだろ。でも、何年かひきこもるとさ、ほんとに人生のカレンダーみたいなもんがなくなるから、もう自分が何歳くらいなのかとかわかんなくなんだぜ。
 まあ、この時代、いつかはクラウンもねえだろうし、一寸先は闇じゃないか。大学は出たけれど、泣いてくれるなおっかさん、か。
 いや、俺が本当に社会人のみなさんに言いたいのは、メールに添付ファイルがあっても本文を読むようにしましょう(添付ファイルに関する説明とか書いてあるので。それ読まんと、質問の電話とかかけてこないで)とか、そのくらいしかないです。つーか、俺はすごい親切なので安心してください。つーか、ついついサービスしすぎちゃう。それで、二秒後に霧散するのはわかっていても、自分が有能なんじゃないかという思い込みを味わいたい。うわ、空しい人生。それで、一年後には、この強風をどこの橋の下でやり過ごすか、獣の臭いのする毛布ひきずって歩いてる。汨羅の淵に波騒ごうとも、巫山の雲が乱れ飛ぼうとも、コルチャークの黄金夢見て寝ていたい。その前に死ぬか。
 まあ、朝起きて着替える服があって、履く靴があって、ちょっとでもドアを開こうって気になれるんなら、それだけで勝ち組だ。俺によし、お前によし、今のところはそれでよし。
 あ、そろそろ外も静かになってきたし、帰るか。いくら希死念慮があっても、関内駅から飛んできたDeNAベイスターズのでかいヘルメットにぶつかって死んだりするのはごめんだからな。それじゃあ。