せっかくだから俺は『トータル・リコール』を選ぶぜ! おっぱいが3つあるからな!

 『トータル・リコール』がこの2012年にリメークされていると知ったのは先週のことで、東京のどこかの駅でポスターをみたからだった。俺は『アルベマス』の映画化の話は知っていた。しかし、『トータル・リコール』がリメークされていることなんてまったく知らなかったし、事前にその気配を感じたことすらなかった。ましてや日本で上映が始まっているなんてことも知らなかった。その場で一緒にいた女に「トータル・リコールのリメークなんてやってんすね」と言っただけだった。俺は『トータル・リコール』がリメークされたのは、完全に顔が割れる例のシーンと3つおっぱいがあるのをいわゆる3Dにする目的なのだと思っていた。そのために立体視ボタンをだれかが連打したのだと思った。それだけだった。
それだけだった、はずなのだけれども、女が『トータル・リコール』を見たいと言い出したのだった。それで俺は、「いや、まだ『ダークナイトライジング』やってますよ」、とか、「SFなら『プロメテウス』ってのもありますけど」、とか、「アニメの『おおかみこどもの雨と雪』って評判みたいですよ(個人的には吐くくらい『サマーウォーズ』が苦手なのだが、せいぜいブログに感想でも書けば12usersくらいブックマークがつくんじゃないかとおもったので)」とか、「ジャック&ベティで安田弁護士のドキュメンタリー『死刑弁護人』やってますよ」とか言ってみたが無駄なのだった。女の決意はかたいのである。まあしかし、俺はフィリップ・K・ディックも好きなのだし、とりあえずbesed on の原作など読んで復習だか予習だかして、『トータル・リコール』のリメイク版に望んだのだった。ちなみに、予約する段階で知ったが、この映画はいわゆる3Dではなく、コリン・ファレルの巨根も3つのおっぱいも立体視されないのだった。くれぐれもご注意を。

totalrecall.jp
↑予告編とか本作の設定とかは公式サイト見ろや。

 さて、そういうわけで、わりと激しい雨の中、美しい名曲「Science Fiction-Double Feature」など聴きながら映画館に行ったのだった。客の入りはというと満員盛況というわけではなかった。暗くなってから入ってきた老人二人が「暗くて座席の番号が見えねえ」と愚痴りながら、そこらに座ったりした。
 ……と、なにかダブル・ネガティブな予感を俺は持っていたのだけれども、本編始まってみればこれがまあ、なかなか息もつかせぬアクションの連続であって、わりと素直に楽しめたと言っていい。おっぱいも、おっぱいも、3つあった。4つはなかったが。というか、これってネタバレ? 
 しかしなんというのだろうか、テイストというか、そのあたりについていえば、ダブルどころかトリプルというか、いろいろぶち込んできた感じはある。P.K.D.の短編の上の映画『トータル・リコール』に『ブレードランナー』の雰囲気と『ボーンなんたら』シリーズに、『マトリックス』と、あと、『ペイチェック』? えーと、みたいな。わりと、というか完全にシリアス。むしろ、おっぱい3つのシーンがなかったら、どうなったかというようなシロモノであって、あれを入れたのはまったく正しいというか、本当に入っていてよかったなという気がする。あれが入っていなかったら、まったくもって、なんというのか、カチッとしすぎていて、いじりようもないぜ、というようなものである。いや、巨根をいじるとかそういう話ではないんだけど。いや、だれもそんな話していないか。
 でもって、『インセプション』的な見方というか、そのあたりのことが問題になってくるのが当然だろう。というか、そもそも、虚々実々、そこにディックの世界があって、たとえば『インセプション』に直接的な関係はないとしても、ディックの世界がすげえいろんな影響を多岐にわたってうんたらかんたらという話じゃないか。それで俺は、なにかを見逃すまいと、しょっちゅう入る光線の演出(なんというのだろうか?)の色や、それの本数まで気にしたりしていたのだぜ。気にしたところで、なんら意味はないが! で、まあそのあたりの判断は各自に委ねる。ただ、「なんでダグにする必要があったのか?」というのがわかんねーし、だって、最後の方で、あれ、そのパケットをあんた持ってるんなら、みたいな。重大な見逃しやらかしてるかな。
 で、一方で、俺は非常にどうでもいい細かいところを見る癖があって、主人公が読んでるペーパーバックはなんだ? とか(これは親切に字幕出してくれたけど)さ。あとは、しかし、なんというのか、そこまでの技術が進んだ世界なら、そんなところに人が入り込んだらそれを探知して自動停止するだろ、とか、高速から一般道(?)に降りるところも警察が封鎖できるだろう、とか、そんな不徹底な除染で行き来できるようなもんなら、なんとかできるんじゃねえか? とか、まあいろいろとね。でも、あの地核あたりをぶちぬく弾丸列車(しかも通勤用)はなにかデタラメもいいところで結構好き。しかし、あの席を変えてみるところあたりとか、あのあれ自体が装置なんじゃねえかとか、これも的はずれな想像とかしたよね、正直。それと、この世界設定で、やっぱりそれぞれの政治体制っつーか、そのあたりとかさ。もう、そのあたり、たとえばブリテンの方とか、同じディックの『いたずらの問題』の支配体制持ってくるとか、そんなんやってもよかったんじゃねえかというか。まったくそのあたりんところは、都市の作りこみくらいに作りこんでもいいんじゃねえかと思ったりはした。
 んで、まあでも、なんというか、全体的に息をもつかせぬ、というあたりなんだけど、それはPKD的な悪夢的なそれというよりも、追跡アクションであって、ドンパチであって、そこでもう悪妻といっていいのかわからんが、ケイト・ベッキンセイルさん(ぜんぜん知らないです)の鬼気迫る演技がすげくて、強くて、怖くて、かっこよくて、美しくて、まあこれは観る価値あるぜというくらいのもので。いや、これはマゾで、もといマジで。
 それと、配役でいうと、なんだろうね、変なこと思いついたんだけど、大ボスのコーヘイゲンをアーノルド・シュワルツェネッガーがやったらよかったんじゃねえかって、すげえそんなん思った。そうすると、なんか最後ああいうバトルになってめっぽうお強いあたりの平仄も合うし、なにより、なんだよこの世界は? ってところで、そんなん『トロン』以上の効果があるだろって。いや、まだシュワルツェネガー知事(なんだっけ?)だから無理も承知だけど、そうだったらどうよ? みてえな。
 うーん、さてまあどうかね。こんなところかね。いやね、しかし、思い返すに、おっぱい3つね、これはやっぱり不可欠だったし、あのシーンひとつでわりとどっかしらフックしているところはあると思う。いや、あー、すげえ上から目線で言うと、あれ入れたから及第点みたいなところはある。なんというか、ディックはわりとバカバカしいところもあるし、そこんところを支えたな、と。いや、それがディックらしさかどうかというとわからんのだけれども、少なくともこの映画のなにかを支えたといっていいと思う。それは断言できる。リメイクだから4つにするか、でもよかったかもしれないが(4つ? この変態め、と罵られるかもしれないが)、2つではぜんぜんだめだ。スシマスターが懇願してもだめだ、やっぱり3つ必要だったんだ。俺が言いたいのは、それだけだ。

☆彡

模造記憶 (新潮文庫)

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 この短篇集に原作『追憶売ります』が収録されている。あとがきに「こんど映画化されるらしぜ」みたいなことが書いてあって(もちろん旧作の方ね)、ウィリアム・ギブスンがセットを見て「よさそう」みたいなこと言ってたとか書いてあった。
アルベマス (創元SF文庫)

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 パンフレットによるとこれの映画できてるらしいけど、公開は? 日本公開は……?
スキャナー・ダークリー [Blu-ray]

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 いろいろ映画化されているが、ディックらしいというとこれになるか。というか、ニコラス・ケイジのとか見てないな。

 ニコラス・ケイジにはタイヤの溝掘り職人とか似合いそう。

いたずらの問題 (創元SF文庫)

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 これも映画化すべきというか、してください。