曲芸飛行

 このあたりでは元町のはずれのドンキにしか売ってない日用品を買いにいかなければと思い、夕暮れでも撮れるかと一応はカメラを持ち外に出る。と、そこで飛行機のエンジン音が聴こえたのだった。それはわりと高度が低そうだったし、ジェット機でもないし、おとなしいセスナの音でもなかった。おれは低く飛ぶ飛行機には敏感なたちで、イヤホンを外すと阿呆みたいに音のする方、する方へと向かっていった。




 まぎれもない、曲芸飛行だった。打ち上げ花火のように垂直上昇すると、まったくエンジンもなにも止まったように静止して、煙を引いてまた落下していく。斜めに急降下したかと思えば、見事に同じような角度で上昇していく。空中で輪を描く。おれはシャッターの壊れかけたカメラで必死に追った。それと同時に、おれは夢を見ているのではないかと思った。おれが子供の頃からよく見る夢というのがあって、いつも見る街の中に飛行機なりヘリコプターなりが墜落するというものだ。何度も何度も見ているので、夢のなかのおれもそれをよく知っていて、その都度「こんどこそ本当のことだ」と思うのだが、結局は夢なのだ。


 音のする方、近い方へと歩みを進めたが、結局しばらくすると音はやんでしまった。おれは山手公園を抜けて本通りに出た。

入ったことのない脇道の階段から下りて、元町商店街の裏の裏を通ってドンキに行った。なにか山下公園の方でざわついている雰囲気、なにかイベントの雰囲気がしたが、おれの目的はドンキで日用雑貨を買うことであって、その目的を粛々と果たして家路についた。

 ドンキを出て、港の見える丘公園の登っていった。もはや暗い中でバドミントンをするカップルなどいた。走るものも多い。

 またなにかざわついた様子もあるが、よくわからない。

 また本通りを帰る。おれがジョギングをはじめたときは、ここを走った。石畳の上というのは非常に走りにくく、初心者にはおすすめできない。

 結局ジョギングは医者に止められてしまったが。

 いつかエレーナでパフェを食べよう。この貴族たちの世界でそれが許されるならば。

 どんな善行、あるいは悪行をつめばこんなところに住めるのか。慢心、環境の違い。それよりもっと前に決められていた生まれというもの。

 生まれというもの。飛べるものと飛べないもの。その他いろいろのもの。

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