『世界軍歌全集』でゴールデンウィークを過ごす

■おれがインターネットをはじめてから、個人サイトなり個人ブログなりの人に、自分からメールを出したことが、たった一回だけある。名前は忘れたが、軍歌サイトの管理人さん宛である。自分の好きな軍歌が、歌詞を変えて労働歌になっているというような記述があったのだが、当の歌詞は「著作権の問題で掲載できない」とあったのだ。そのころ高校生だったか大学生だったか忘れたが、世の中にはそんなことがあるものかと驚き、気になり、たいへんかしこまってその歌詞がいかなるものかお教え願えませんか、というようなメールを出したのだ。返事が来て、歌詞の内容も教えてくれた。お礼のメールを出した。

■それだけである。そこからさらに軍歌マニアになっていくこともなければ、「この世にはこういうふうにある曲がまったく反対の思想に使われる例はどのくらいあるのだろうか」などと興味の幅を広げることもなかった。だからおれは平凡どまりなのよってみさ希姉さんが言ってた。

■……というようなことを、この本を読み終えて思ったりした。著者は「西洋軍歌蒐集館」というサイトの管理人の方らしく、インターネットでの軍歌サイトの歴史について触れられていて、ひょっとしておれがメールしたのもそこに出ていた(そして今は閉鎖されている)サイトなのかもしれないと思ったのだった。

■おれの軍歌好きは中学のころから勝手に始まった。きっかけはよく覚えていない。今思えば、ネットのないネトウヨのような思想というか気分を持っていたような気はするが、それはそれとして軍歌が好きになっていた。ワゴンセールで売られている安い軍歌のCDを買うようになっていた。おれの青春時代といえば、Rockin'Onの洋楽と日本の軍歌の二本立てといえる。中二病といえばそれまでだが、思春期に聴いた音楽というのは一生もののようで、おれは新しい服を買ったりして機嫌がいいと「水師営の会見」とかを口ずさむかもしれない。機嫌がいいときの歌だろうか。

■さて、『世界軍歌全集』である。これとYouTubeゴールデンウィークを潰せる。いや、実際のところ潰しちゃいないけれども、潰そうと思えば潰せるかもしれないな、などと思いもする。ところで、ナチの曲とかにアクセスしようとすると警告が出るんだけど、前からかしらん。

■「第一章ナショナリズムの目覚め」、「第二章国民国家の盛衰」、「第三章イデオロギーの時代」、「第四章総力戦体制の完成」、「第五章多極化する世界」、……という構成。これでひたすら時代時代の軍歌(原詩と対訳)、それに解説がついてくる。フハッ、詳しい。

■ひと通り読み終えて、まず思ったのは「コンドル軍団の曲人気だな」というか、おれが自分の昔話で語ったようなケース、イデオロギーの左右から敵国同士のあっちとこっちとかで同じ曲が使われてることが少なくない。最初から意図的に替え歌として使おうってのもあろうが、自然発生的に現場から生まれてきたりとか、いろんな経由があったりとか、いや、面白いもんだ。

■おれと女がカラオケのようなもの(どちらも歌えないのでとてもカラオケとは呼べない)をするとき、おれがとりあえず軍歌を歌うのだけれども、わりと暗い歌を歌ってると、「軍歌って士気を鼓舞するためのものじゃないの? こんな暗い歌じゃ元気なくなりそう」とか言われるわけだ。それに対して「そーっすね、どうなんすかね、日本ぐらいですかね」とか曖昧に答えてたんだけど、追悼歌というジャンルは二百年前のドイツから歌われてたな、とか(「我には一人の戦友がいた」)。

■ちなみに、軍歌ばかりでなく、労働歌や革命歌もたくさん取り上げられていて悪くない。おれは平凡どまりだが共産趣味もあるので。

■最近おなじみの曲、というのもある。すばらしい『ストライクウィッチーズ』のCDで歌われている曲である(本書にも言及がある)。ところで、ずっと予約中のCDのつづきはどないなっとりますのでしょうか……。サーニャが歌ってた航空行進曲は輸出されてなんとナチの闘争歌になってんだからすごい話だ。いや、21世紀にパンツじゃないから恥ずかしくない方がすごいかもしれないが、それはわからない。

……ちなみに、こちらの歌詞では「鋭き眼は原子さえ貫き」になっているが、本書では「鋭き視線は塵も逃さず」と訳している。ロシア語の中に「atom」らしき単語が見える。塵も見逃さない方が歌詞として自然だが、ソヴェート・ロシアでは原子が君を見逃さない方がいいかもしれないと思う。

■原語表記、なのだった。おれはといえば高卒程度の英語力と、大学一年程度のフランス語力しかない。後者は、要するに、語順と、読み方と、並びの、若干の、初級のルール程度。これについて、この程度でいいからドイツ語、ロシア語あたりまで得られたらいいな、などと思ったが、そのために努力する気などない。どうせGoogle先生かなにかがやってくれる。

■メロディというかなんというか、そのあたりだと、どうもドイツ軍歌とかはあまりしっくりこない。日本は別格として、ロシアのが好きかもしれない。いや、全部聴いたわけでもねえし、単に「ポーリュシカ・ポーレ」とか「カチューシャ」が単品として名曲なだけかもしれないですけれども。

■あとひとつ、すごい発見があった。昔、昔、父親が見ていたレンタルビデオの最後だけ見かけたのだったかどうか、なんかユーゴスラヴィアあたりのおっさんたちがトラックで突っ込んでいくときに、チトーの歌を歌っていて、そこだけ妙に印象深く、メロディも少し頭に残ってて……という曲を見つけたのだ。

■この曲! で、肝心の映画はというと、探しきれなかった。チトーなきあとの紛争ものだと思うのだが。気になる作品もあるのでチェックしてみようか。たぶんだけど、別にチトーを讃えて歌うというより、やけくその中で出てきた感じだったような気がする(韓国映画シルミド』で「赤旗の歌」歌うシーンみたいな)。

■ほな、このへんで。


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……軍歌がそのまま国歌になりました、みたいな例は珍しくない。これは日教組公募の「国民歌」の話。