ベンゾジアゼピン文学

幻影の書 (新潮文庫)

幻影の書 (新潮文庫)

 ポール・オースターの『幻影の書』を読んでいたら、ザナックスという薬が出てきた。わけあって飛行機に乗れぬ主人公が、飛行機に乗るために自分を自分でなくすくらいの薬が必要だというので、なんとか医師に懇願して処方箋を書いてもらった、というような話だった。そして、薬のおかげで主人公は我を失い、飛行機に乗る手続きを済ませ、眠り、気づいたら旅先のホテルにいる、といった具合だった。
 そんな強い向精神薬とはなんだろうと検索してみれば、なんのことはないソラナックスのことだった。抗不安薬としてはメジャーもいいところの薬じゃないか(マイナートランキライザーなのに!←このエントリはこれを言いたかっただけ、という可能性を含みます)。オースターさん、ちょっとザナックスの効能盛りすぎじゃあないですか? と、ちょっと言いたくもなったのだった。まあ、医師が暗示をかけたみたいな話かもしれないですが。あ、あと、『幻影の書』はむちゃくちゃ面白いのでとっとと読み終わりたい。
スプーク・カントリー (海外SFノヴェルズ)

スプーク・カントリー (海外SFノヴェルズ)

 ベンゾジアゼピンアメリカ小説。とか、大げさなことは言えないくらいの読書量だが、こないだ読んだウィリアム・ギブスンの『スプーク・カントリー』にもこの薬は出てきた。ベンゾジアゼピン中毒の主要人物が出てきて、日本製の「ライズ」という薬を餌にCIAだったかなんだかのエージェントにいいように使われるという役回りだった。ベンゾジアゼピン中毒者のことを「ベンジー」とか表していたっけ。これについても、正直そこまでのものかと思ったりはしたのだけれど。ソラナックスも処方されてたこともあるし。
 ただ、おれは今わりと気軽な抗不安薬としてメイラックスレキソタンを食ってるんだけど(あと飲んでるの全部晒してしまうと、ジプレキサ、アロチノロール塩酸塩、アモバン)、そんなによくねえんじゃねえの? みたいな意見もあるみたいだ。どこでってWikipedia先生で。

 ふーん。
 まあいいや、たった二冊の本にしか出てきてないけど、なんだろう、ひょっとすると現代アメリカ文学のなかにベンゾジアゼピンがおおきく関わってる作品のムーブメントなんかはないのだろうか、とか想像してみたりもする。アルコール文学、みたいなジャンルもあるだろうし(ブコウスキーとか入るのかな?)、ドラッグ文学もあるのだろうし(PKDとか入るのかな?)、そういう系譜で。いや、そういう系譜だったらプロザック文学があるのかもしれない。そういうアンソロジーとかあれば読みたい。
 そういうアンソロジーといえば、おれは長年「刑事か探偵が独り暮らしのわびしい人間の住居を訪れて煮詰まったひどくまずいコーヒーを出されるアメリカ文学アンソロジー」を読みたいと思っているのだけれど、その方面でまとめられた本があるという話は聞かない。いずれはすべての小説がデジタルデータとなり、巨大なデータベースを形づくり、こんなリクエストにも応えてくれるようになるかもしれないが、まあいつの話になるのかはわからない。おれがデジタル・デバイスにアクセスできる間に起こるかもしれないし、おれが浮浪者になってからかもしれないし、死んだあとになるかもしれない。ああ、先を思うと不安になるから、今日のところはレキソタンでも食うしかないな。それじゃあお休み……って昼休みだし。