人間というものの髪を切ると似たようなにおいがしてしまうのか

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コンビニのレジに少し行列ができた。おれはその最後尾に並んだ。おれの目の前には少し変わった格好をした若い男が並んでいた。腰にガンホルダーのような用具入れ。中身はハサミや櫛。彼はきっと近くの美容室から来た男。短く切りそろえられ、頭頂部だけちょっとだけ色が付いている。左手にはパネライの腕時計。革のベスト。細身の体、漂うおしゃれ感。

ただ、おれがその男に注意をひかれたのは、その格好ではなかった。においだった。彼からは床屋のにおいがした。おれは美容室というものには入ったことすらないが、おっさんむけの理容室、床屋には行く。そのにおいがした。おっさんの頭頂部付近から発せられるのかわからないが、それと同じにおいがしたのだ。

途端におれは悲しくなった。美容室でもそうなのか。男性客もいるだろうが、女性がメーンの店でも同じなのか。人間の頭皮に近い部分は似たようなにおいがしてしまうのか。美容師にも、あるいはその道具にもそのにおいが染みこんでしまうのか。美容室はもっといいにおいがする場所であってほしかった。美容室に行く人間からはべつのもっといいにおいを放つものであってほしかった。とくべつ直前の客がそのにおいをたくさん放った可能性もあるのか。いや、なにか違う、染み込んだようなにおい……。

人間というものの髪を切ると似たようなにおいがしてしまう。おれは無性に悲しくなった。美容師は菓子パンを一個買うと店を出た。おれは自分がなにを買ったのか覚えていない。