おれがこの俗世を離れているあいだの話題の一つといえば、オリンピックの競技場、そしてロゴマーク、佐野研二郎とかいう人のことがあげられるやろう。
正直おれはオリンピックの公式ロゴマークなどというと縁遠すぎて何も言えんし、高名なデザイナーの思考回路もようわからんというのが正直なところだった。まあ、当初案にさらなる元ネタが……というあたりで、完全に思考回路もショート寸前というか、たとい本人の無意識(の記憶)から出たもんであれ、経緯含めてありゃアウトやとは思ったが。
が、それより何よりガックリきたのがメガネの話よ。
え、なんで? メガネなの? というところであるかもしらん。でも、メガネなんや。おれはデザイナーの教育も受けてないし、DTPの末端にいただけのAdobeの奴隷にすぎなかったわけだが、こりゃねえだろう、と。まあべつにトートバックの件で「こりゃねえだろう」でもよかったわけだが、なんというか、このメガネの件で最大級にガックリきた。おれがメガネ人だからかもしらんが、ともかく。
だってあんた、一流どころでしょ。高名なデザイナーでしょ。立派なデザイン事務所でしょ、と。それなのに、なんで経費でメガネ買ってきて自分で撮るなり、プロに撮らせたりせんの? お金あるんでしょ? お金。金だよ、金、金あんだろ。
いやね、「あ、メガネのアイディアが浮かんだ」ってなって、とりあえず形にするか、とか、カンプ見せとくか、そんじゃ、えーと、メガネ、メガネ、いうてネットから拝借して、クライアントなんかに見せて、そこまでの話ってことで、内輪で済ますんなら別にええと思うんよ。でも、そのまま成果品にアカンやろ、と。これは、スタッフの手違いとか、うっかりミスとか、そういうんでも、完全にアカンでしょ。金あるんだから、スタッフも優秀なんだろ? 金あんだろ?
いや、もっとアカンのあるやろ、という話もあるのかしらんけど、なぜかわからんがおれはこのメガネの話に一番がっくりきた。べつにもともと佐野という人を知ってるわけでもなんでもなかったので、期待値もなければがっくりもないはずだが、これはさすがにいい加減すぎるだろう、と。金あるんだろうに、と。
愚痴にゃなるが、うちみたいな零細でも必要な写真とあらばしかるべき許可をとったり、しかるべき金を払ったり、しかるべく自前でなんとかしてきたわけじゃないの。クライアントから「この写真使える?」と送ってきたデータ見て、一応検索でチェックしたり、画像のモアレから「書籍の無断スキャンじゃねえの?」と問い合わせたりするわけじゃないの。なんでそれができないの。しないの?
金がなくて、ってのは絶対ないわけじゃない。そこがおれには……下からか上からかわからんが、「許せない」って気になるわけよ。エンブレムの使用例の件なんかについては、外に出すものかどうか先に決まってたのかわからんのでなんとも言えないし、審査員だけに見せるもんのつもりだったいうんならとくになんとも思わんよ。しかし、このメガネは成果品になってる。そこがなんというか、がっくしくるんよ。でも、メガネよ。金あるんだろ、金、金でメガネ買うなり、メガネの写真の権利買うなり、なんだってできるはずでしょうに。なんでうちみたいな零細が写真や素材に誠実であろうとそれなりに苦労して潰れて首吊っていくのに、あんたみたいな金も名声もあるところが画像窃盗でのうのうとやってられんの? って思うんよ。画像窃盗で拍手喝采されてんのって思うわけよ。Webからとってきてサイズ足りたの? って思うわけよ。
そりゃあおれは学もないし、デザインの教育も受けてないし、デザイン100%の業界で働いてたわけでもない。やっかみだってある。ちょっとバイアスかかってるかもしれないし、本件も偶然の一致だったという証拠が提出されるかもしらん。同じメガネを似たような角度から撮りましたって。
でも、まあ、盗んだこと前提ってことで話をすりゃ、どうしても思うわけよ。ひょっとしたら金も名声もあるデザイナーとかいう人間の棲息する業界では、こんなん日常茶飯事で、べつに使える金があろうと「やってなにがわるいの?」って意識なのかもしらんって。でも、それって正直者が馬鹿を見るってことじゃないの。おれは馬鹿だから馬鹿を見ただけかもしれないけど、それでも正直であろう、誠実であろうというのが蔑ろにされんの胸糞わるいんよ。なんかこう、ネットの(一部の)総力あげて誰かの粗探しするような情況もあんまり気持ちいいことじゃないけれど、それどころじゃないんよ。メガネ、メガネの問題よ、これは本当になにか、この世はくだらないと思わせるに値する代物のように思えてならないんよ。少なくともおれには、オリンピックより大きいんよ。わかってくれんでもええけど、そうなんよ……。