村上春樹/安西水丸『日出る国の工場』(1986)たちの現在

日出る国の工場 (新潮文庫)

日出る国の工場 (新潮文庫)

 村上春樹安西水丸(と担当編集者)が工場見学をする話である。1986年に取材され、出た本だ。読み終えたおれは思った。ここで取材されている「工場」は2015年の今、どうなっているのだろうか? と。

メタファー的人体標本 京都科学標本

 まずは人体標本を作る工場である。本書では職人が標本の色塗りをしている職人芸の工場という感じであったが。

 調べてみると、株式会社京都科学と名を変えているようだ。そしてなにやらハイテクになっている。標本ばかり作ってるわけではなさそうだ。「心臓病診察シミュレータ “イチローⅡ”」とか作ってる。なぜイチロー

工場としての結婚式場 松戸・玉姫殿

 これは工場とはちょっと違うかもしれないけど、「工場としての結婚式場」だ。さて今は? と思ったがよくわからない。なくなってしまったんじゃないのかな。少なくとも名前は。とはいえ、Wikipedia先生が教えてくれたことがある。
wikipedia:玉姫殿

玉姫殿(たまひめでん)は、結婚式場の名称である。全日本冠婚葬祭互助協同組合に加盟する互助会組織が結婚式場の名称として使用したため、地域によって運営母体が異なる。日本全国に多数存在したが、その多くは名称変更されており、玉姫殿の名称を使用している式場は少なくなっている。

 とのこと。
 ちなみに、本書では架空の新婚カップルが見積もりをしていくという紹介のされかたをしているのだが、新郎は26歳で月給28万円、貯金180万円。新婦は23歳で月給21万円、貯金は230万円だそうだ。これが1986年の基準でどうなのか、現在の基準でどうなのか、下流のおれには見上げるばかりで想像がつかない。そして結婚にも結婚式(他人のも含めて)にも縁なく人生を終えていくのだろう。

消しゴム工場の秘密 ラビット

 ラビットの消しゴムといってもあまりピンとこない。関西の会社だからだろうか。というか、公式サイトもあるし、バンバン消しゴムを作っているのだろう。

 「小さな消しゴムに大きな夢を」という理念がでかく書かれていて、「はあ、そうですか」という気になる。あと、レーザーポインターとか作ってるみたいで、なにか消しゴムから技術転用できた部分とかあるんだろうか。よくわからない。

経済動物たちの午後 小岩井農場

 小岩井農場ならあるだろ、と思ったら、やっぱりあった。

 ちなみに、村上春樹は牧場が使う「経済動物」という語に感じ入るところがあったようだが、なるほど牛は経済動物だ。むしろ競馬の中で用いられる方が特殊なのかもしれない。ちなみに、種牛の精液採取のためのダッチワイフのようなものが紹介されていて、実際に生でやらなければいけない種牡馬繁殖牝馬の種付けとは違うもんだな、とも思った。

思想としての洋服をつくる人々 コム・デ・ギャルソン

 おれは貧乏でなおかつファッションに興味もないのでコム・デ・ギャルソンといわれてもわからぬ。本書でも触れられているが、吉本隆明埴谷雄高の間でコム・デ・ギャルソン論争があったのを知っているくらいだ。で、もちろんかどうかもわからぬがコム・デ・ギャルソンも健在だ。ただ、公式サイトがおしゃれすぎて、やはりおれにはわからぬ世界だ。

ハイテク・ウォーズ テクニクスCD工場

 1986年当時はもっとも取材(見学)が難しかったというCD工場。2社にピシャっと断られたあと、松下電器=テクニクスの工場からオーケーが出たという。で、テクニクスというのはこのWikipediaの項目のところでいいのかな?

 でもって、気になる記述。

 最後にオーディオ・ファンの方々に一言。ディジタル・オーディオ・テープとか録音もできるCDというのは、松下電器ではすぐにでも製品化できるのだけれど、あまりにもコピーした音が良すぎて著作権の問題がからんで、すぐには発売できんのですよ、ということである。

 テープのことはよくわからんが、「録音もできるCD」というのはCD-Rのことじゃないの。へえ、1986年ころにはもうそんなんだったんだ。
wikipedia:CD-R
 Wikipedia先生によると「太陽誘電が1988年に開発」とあるからそんなもんか。いつごろだったか正確には思い出せないが、我が家にCD-Rが来たときの衝撃というのは大きかったな。オリジナルCD作れるんだもんね。そんでもって、今じゃBlu-rayとか焼いてるんだもん、PanasonicのDIGAで。いやはや。

とことん明るい福音製産工場 アデランス

 アデランスときたら、これはべつに普通にあるでしょ。

 うん、ある。というか、たぶんテレビCMとかでもよく見るような気がするし。と、思ったら、こんな記述があった。

 かつらというのは非常に特異な商品なんです、とアデランスの広報担当者は言う。何が特異かというと「クチコミがまったくない」ということである。たとえば「俺のコレ、かつらなんだけどさ、ほら、ベリベリ……ね、わかんないでしょ? よくできてんだよね」と友だちに言ってまわるような人はまずいない。

 言われてみればそうかもしれない。だから、アデランスに限らず薄毛関係(最近……かどうかわかんないけど発毛、育毛剤も)のテレビコマーシャルとか多いのかな、などと思った。ちなみにおれは三十代後半にして毛量も多く黒々としているのを高校生みたいに自分でブリーチして染めたり(この連休中にも)しているのだから、今のところ縁がないし、金が無いので毛が無くなっても縁はないだろう。……というか、急に植毛を宣伝し始めるステマブログとかどうだろうか。今までにはなかった「クチコミ」ってやつで。いや、実際にありそうでなんなんだけれど。

 ……という感じで松戸の玉姫殿だけ行方不明で、他はみなよろしくやっているという感じだった。もしも現在の日本で村上春樹が工場見学行くとしたら、どこらへんだろうね、とか思いつつ、おしまい。