おれは元力士かなにかに金属バットでぶん殴られているから痛いのは正常であって心の病ではない

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なにか思い当たることもないのに、急に足のすねがむちゃくちゃ痛くなったら医者に行く。なんらかの病気かもしれない。異常だ。

ただ、元力士かなにかに金属バットで足のすねを殴打されて痛くなったらどうだろう。もちろん医者に行くだろう。ただ、これは原因と結果がはっきりしている。正常だ。

そういう意味で、おれは正常だ。

精神病院通いのおれの精神は正常だ。

おれの不安がとまらないのは、動悸がおさまらないのは、夜に眠れないのは正常だ。

なぜならばおれは客観的に見て不安にならずにはいられない環境にあるからだ。日々の生活に汲々し、貧困に怯え、なんの蓄えもなく、将来の展望もない。欲しいものもなくなってしまったし、なりたい自分なんていうものはもとからない。ただ、生きていくなら安心がほしい。平穏がほしい。社会の片隅でひっそりと息を潜めて生きていられればいい。しかしそうはいかない。おれは元力士かなにかに金属バットでぶん殴られている。痛いのは当たり前だ。

しかし、元力士かなにかに金属バットでぶん殴られたのであれば、骨折なりなんなりの根本原因がある。骨折を治そうという処置がとられる。

一方でおれの場合はどうだろうか。おれの骨折は医者には治せない。医者はおれにお金をくれるわけではないし、生活の保障をしてくれるわけでもないからだ。「景気はどうですか?」、「相変わらずダメです」。

どうにかしなくてはならないのはおれを金属バットで殴打してくる元力士だ。医師と金属バットを持った元力士が殴り合ったら勝つのはどちら? よほどの例外がないかぎり、元力士が勝つ。

というわけで、おれの骨折は治らない。骨折は安静にしていれば治るかもしれない。しかし、おれは歩いたり走ったりしなくてはならない。医者にもらえるのはモルヒネメタンフェタミンか。ゆきゆきておれ軍、とりあえず痛みを抑えるだけの処置されて。

ああ、だれかおれを殴打する元力士を殺してくれないものか。それともそれを殺せるのはおれだけか。おれは左手に瞑想、右手に運動習慣をもって果敢に元力士に挑む。元力士の太い腕っ節に握られた金属バットが弧を描く。おれの頭蓋骨は粉々になって、脳みそが飛び散った。おれは死んだ。おれは死にたい。おれは死ぬべきだ。死ぬまで歩いたり走ったりしなくてはならない。政府は早くヒロポンなりペルビチンなりの販売を解禁するべきだ。安価で販売するべきだ。無料配布するべきだ。それこそが一億総活躍社会だ。

そして、おれは、頭蓋骨が粉々になったおれは、薬の力で立ち上がり、飛び散った脳みそをかき集める。また立ち上がって、歩き始める。満員電車、緊急停車、非常ボタンを押してドアを開け、会社に向かって走り始める。すべてのサラリーマンはそのあとに続く。力強い労働の呼び声、活躍の歓喜! おれには活躍英雄勲章が贈られ、石になって首都を見下ろしつづけるのだ。