セブン-イレブンのドーナツがリニューアルしたという。ネットでの評判を見てみたら、「ミスドに追いつくには程遠いが、前よりましになった」あたりが多かったように感じた。
しかしまあ、それは大したもんじゃないの、と思った。「コンビニでドーナツやろうぜ」となって、やっぱりその時点ではできるかぎり購入者を満足させる味を研究開発したはずだ。コストやらなんやらも当然あるだろうが。
それでもって、それなりにでかいマーケットになったけど、目標には到達していない。じゃあ、リニューアルするか、となって、味を変えて、なんとなく「前よりマシになった」という風潮を(おれがネットで見る限り)生み出した。たとえば、「全品定価を30円値引きします」というのなら、わかりやすい。目に見える変化だ。一方で、リニューアルして味を変えます、というのはわかりにくい。人間の味覚なんていうものは、それなりにいい加減なものだ。10円玉3枚より不確実なものだ。そっちに打って出て、「まあそれなりにマシになった」と言われているようだ。ほう、それなら確かめてみようじゃないか。
というわけで、おれは図書館の帰りに最寄りのセブン-イレブンに寄って、ドーナツを3つ買うことにした。時間は午後3時くらい。その日起きたのは1時くらいで、シャワーを浴びて、図書館に行って、100円ショップで買物をして、その帰り道だ。4ついけるかな? と思ったが、心のなかのスシマスターが「3つで十分ですよ」というので、3つということにした。4つにして500円を超えてしまうかもしれないというのもあった。
さてセブンである。ドーナツ売る気まんまんで、カウンターにメニュー表がバーンと貼ってある。わかりやすい。いちいちドーナツ入ってる台の方に言って、なんたらかんたらいうドーナツ名を頼まなくてもいい。おれは……えーと、固めでチョコのかかってるやつと、中にクリームの入ってるやつと、キャラメルソースがなにかしているやつを選んだ。「これとこれとこれ、一個ずつ。Suicaで」。スムーズだ。若い店員がレジに打ち込み、おれは財布ごと端末にのせて決済が終わる。
が、ここからが長かった。若い店員の横にいたもう一人の店員。これが、おばあちゃんなのである。年配の女性、というのではなく、なんというのか、昭和の漫画に描かれるタバコ屋のおばあちゃんみたいなおばあちゃんなのだ。おれは今まで何千回か(かな?)コンビニを利用してきたが、ここまで高齢らしい高齢の店員さんは初めて見たといっていい。
でもって、おばあちゃん店員がドーナツの入ってる台に歩いて行って、トングでドーナツひとつ袋に入れて、テープで止める。袋に入ったドーナツをカウンターに持ってくる。また戻ってトングでドーナツひとつ袋に入れて、テープで止める。袋に入ったドーナツをカウンターに持ってくる。おれが買い物中なのかどうか迷っていた次の客に、若い店員が「どうぞ」と声をかける。おれは少し避ける。
と、ここでおばあちゃん店員がカウンターのメニュー表を見て「えーと……」と言うではないか。おれはふたたびメニューを指さし、愛想笑いをしながら「これと、これと、これです」と言う。でもって、おばあちゃん店員がドーナツの入ってる台に歩いて行って、トングでドーナツひとつ袋に入れて、テープで止める。袋に入ったドーナツをカウンターに持ってくる。これでようやく3つそろった。3つで十分だった(体感10分といってもいい)。ありがとうスシマスター。3つのドーナツをレジ袋に入れ、ようやくおれの手に手渡された。「おまたせしました」。「どうも」。
安アパートに帰ったおれは、馬券を買ってもいない競馬中継を見ながらドーナツを食った。そうだ、ドーナツにはコーヒーが必要だ。おれはインスタント・コーヒーにラムを入れたの(信じられないだろうが、おれはコーヒーにラムを入れる飲み方を覚える前は、豆を手動のコーヒーミルでガリガリ挽いていたのだぜ)を飲みながらドーナツを食った。
コーヒーはどうでもいい。ドーナツどうだった? 袋を開けてみて「あれ、ちょっとちっちゃい?」と思った。よくわからない。おれの女は「ミスタードーナツはずいぶん小さくなった」とよくいうが、それもよくわからない。というか、そもそもおれはセブン-イレブンのリニューアル前のドーナツを食ったことがあったろうか? いや、一個は食ったような気がする。と、そんな記憶で比較などできるものか。というか、べつにおれはドーナツ審査員でもないので、比較なんて必要ない。不健康な日曜日の朝飯だか昼飯だか三時のおやつだかわからないドーナツを食うだけのことだ。
というわけで比較はできない。比較はできないが、「まあ、ドーナツは美味いよな」というところに落ち着いた。そうだ、そもそも、おれはドーナツが好きだ。生まれ変わったらアメリカの警官になりたいくらいだ。そんなおれはドーナツ3つに満足した。チョコも甘すぎず、クリームも甘すぎず(そういうのがいいんだろ? と言われているような気になるおれの被害妄想)、最初の印象と違ってボリュームもあった。これは4つも食えない。ありがとうスシマスター。
おしまい。
……ちなみにこんなんでガリガリしてた。適当な量のマンデリンを。