さて、帰るか

 

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名も知られぬ虫のように日々を送らせてくれ。死にたい、死にたくない。生きたい、生きたくない。本当は選択肢なんてない。人は死ぬ。この世になんらかのあまり美しくない物質を残して、死ぬ。霊魂が存在するのなら、それはそれで楽しいのだろうけれど。なにせ、学校も試験もないのだし、労働もないのだろう? 不安もないのだろう? 

心の隙間に速乾性のコーキング剤を流し込んでくれ。けれど、あふれだす涙がすべて流してしまう。そろそろと心臓が落ちないように歩く。ひょろっと歩くとビリっとやぶれます。すかさずターンしておれを見ているやつを見ようとする。電柱の影からぬっと顔を出して、すっと顔を隠す。さらにターン、ぬっと出て、すっと隠す。そいつの顔はすっかり覚えた。おれとは似ても似つかない顔だ。似ても似つかないってどういう意味だ? 似たもの同士なの?

おれは腹が減って家に帰る気力もない。そんなときはオフィスグリコ性善説オフィスグリコの善だけで天界はいっぱいになってしまって、羽根の腐った天使が毎朝道端に落ちている。それをカラスがつついて食っている。ハトが近づくと威嚇して追い払う。カラスはそれで一日の食を満たしてしまうので、あとは遊んで暮らしている。だから、このところカラスの賢さは上昇する一方で、アマ三段くらいの実力はあるらしい。実際にたしかめたやつはいないということだが。

小学生のころだったか。家のトイレのカレンダー。ふと、目をとじて適当に12ヶ月のうちの1日を指差す。それがおれにとって特別な日、運命の日付だ、と念じながら。指差したのは6月28日。本当だぜ。それ以来、おれは6月28日になにか起きるんじゃないかと思いすごしているが、なにか小さなラッキーにもアンラッキーにも出会ったためしがない。そう書き残したおれが、この帰り道、ダンプカーにはねられて死ぬこともあるだろう。今夜は死にたくない? 馬鹿な、天使はみんな死んでしまったのだぞ。いったい何に願えというのか。と、すかさずターンする。死にかけの天使が水を一杯くれないかというので、「世界を救う水素水ならあるが」とからかってみたら、恨めしげな目をしながら死んでしまった。悪いことをしたと思う。だからこうして、反省文を書いている。毎日、毎日……。