ミステリーというものは……『ゲルマニア』感想

ゲルマニア (集英社文庫)

ゲルマニア (集英社文庫)

 ただ偉ぶってみせるだけで、田舎くささを脱しきれない地方都市、長年にわたってそうした矛盾を抱えた旧都ベルリンの居場所は、もはやこの偉大な構想にはなかった。独裁者は、はじめからそう表明すべきだったとしばらく前から考えていた。ベルリンという言葉の響きは貧相だ。必要なのは新たな名称。偉大で記念碑的な名、世界都市に相応しい呼称。たとえば<ゲルマニア>。

 タキトゥスとは関係ない。ハラルド・ギルバース『ゲルマニア』の話である。だがちょっと待ってほしい、『ゲルマニア』とは関係ない話からはじめる。
 ミステリーというジャンルはどういうものであろうか。おれは先行するなにかにあたらず、自分の頭で考えてた。足りない頭で考えた。出た結論は「探偵役」が「謎」を「解明する」、というものだ。
 「探偵役」は警察官でも探偵でも、巻き込まれてしまった一般人でもいい。ここに重きが置かれればキャラクター重視の小説になるだろうし、ハードボイルドやノワールになったりするかもしれない。
 「謎」に重きを置けば、トリックがメーンとなる本格だとか新本格だとかになるだろうか。「解明する」に重きを置くのは、たとえば最初に読者に犯人や動機が示されていて……ようわからんが、ドラマの展開に重きをおくことになるのだろうか。
 すべてのミステリー小説というのは、この要素で成り立っている……? かどうかはしらない。だが、それをどう色づけていくか、肉づけていくか、そこにミステリー作品の特色が出てくる。おれは、『ゲルマニア』を読みながらそんなことを考えたりした。
 『ゲルマニア』を構成する要素はなかなかひねりにひねっている。インメルマンターン並にひねり込んでいる。事件は「連合軍の爆撃が日常化しているベルリン」で起きた「猟奇殺人」で、主人公は「SSに捜査協力を要請された」、「元敏腕刑事」の「ユダヤ人」なのである。
 そんな時期にベルリンにユダヤ人? ナンデ? というと、彼の妻が生粋のドイツ人だったからだ。ユダヤ人が連行されていったとき、その妻たちが収容所を取り囲み、彼女らの夫を取り戻したという。本当にあった話かどうかは……。

みすず書房から出ている、
「語り伝えよ、子どもたちに」
という本の124ページに、ユダヤ人男性と結婚した非ユダヤ人女性数百名が、夫が拘留されたことに抗議し、ほとんどの女性が夫を取り戻すことができた、という記述があります。

ナチス政権下、ユダヤ人と結婚したユダヤ人でないドイツ人も、強... - Yahoo!知恵袋

 などとネットにあったので(本の存在もネットで確認した。おれはこのくらいの根拠があれば、「まあそうなんだろう」というくらいに判断する)、本当にあったことなのだろう。
 して、ミステリーというものが、ひねりにひねった設定であればあるほどおもしろいかといえば、そうでもないだろう。だが、この設定はなかなか興味深さを醸し出している。なんたって、主人公は捜査の依頼主にして協力者であるSSにいつ粛清されてもおかしくはないのだ。呉越同舟なんてもんじゃあない。そして、当時のナチス内の権力争いや、ドイツの人々の生活が細かく描かれ……、悪くないんじゃないの。
 と、まあ、そんなところだ。「悪くない」だ。正直、この設定でこの内容、及第点よりは上。上から目線。まあ主人公がペルビチン(当時処方、市販されていた覚醒剤)を手放せなかったりとか、好きなところ(どういうところが好きなのか?)も少なくない。設定が設定だけに緊張感は常にある。ベルリンの描写も多くの資料にあたって描かれているようだ。とはいえ、疾走感にやや欠けた。「謎」についてもやや物足りないところがある。とはいえ、読んで損はしないんじゃないだろうか。うん。それじゃ。

>゜))彡>゜))彡>゜))彡>゜))彡

アイアン・スカイ Blu-ray

アイアン・スカイ Blu-ray

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)