きみにも城はあるか? 『心が叫びたがってるんだ』

 大船には「城」という名前のラブホテルがあった。高台の上にはなかった。おれの知る限り、大船のラブホは「城」のみである。藤沢には二軒か三軒ある。アニメとは関係ない話である。
 とはいえ、ラブホである「城」がヒロイン(あるいは主人公四人組のうちの一人)に与えたインパクトは強烈である。えぐいところを持ってくるなあという感じである。おしゃべりな少女が、父が「城」から母とは別の女性と出てくるところを見てしまう。無邪気な少女はそれを母に話す。すべては台無しになって、少女は語ることをやめる。
 超平和バスターズか、という感じはある。この映画がどれだけ成功をおさめたのかよく知らない。興行的な意味でである。おれにとって成功の映画だったかというと、まあ成功だったんじゃないのか、というくらいである。いろいろと問題のある高校生たちが、やらざるをえなくなったミュージカルに向かって心を一つに重ねていく。しゃべれなくなった少女も心が溢れきれなくなってくる。まあ、いい話じゃないか。おれは心が死んでいるので、そのていどにしか思えなかった。もっと若くして観たら別の感想があったかもしれない。あるいは、高校生時分に観たら嫌悪していた可能性すらある。おれはおっさんとしてこの作品を観て、おっさんなりの上滑りを感じた。それは作品の出来とは関係ない。おれがもう歳を取り過ぎているということにすぎない。
 大船には「城」というラブホがあった。おれは「城」に行ったことがある。