- 作者: 島田荘司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1998/03/13
- メディア: 文庫
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日常というものは、何とも頼りない受身の存在だ。記憶がなくなれば成立しないのに、人はそれが陽なたにできる自分の影のように、何があろうと絶対に去っていかないと確信している。
おれは一時期「新本格」と呼ばれるミステリーを読み漁ったことがあった。今となってはなにを読んだか、どんな内容だったか覚えちゃあいない。まったくいい加減な記憶であって、おれは日々異邦の中を生きているといっていいかもしれない。
とはいえ、おれはこの『異邦の騎士』を読んでいないという記憶はあった。あったので、読んでみた。ひょっとしたら読んでいるかもしれないなぁと思いながらも、やっぱり読んでねえやと思って読んだ。御手洗潔シリーズなの? と思いながらも(その御手洗潔ものを読んだかどうかも覚えていないんだが)、読んだ。
主人公は記憶を失った男である。それ以上のことは書かない。世の中には「ネタバレぜんぜん平気」とか、「むしろトリックを知った上で読んだほうがいい」という人がいるのは知っているが、おれはそうじゃあない。読み進んでいてひっくり返る仕掛けがあるなら、それを楽しみたいタイプだ。そんなおれが、『異邦の騎士』面白かったぜ、というのに、余計な情報は出したくない。ゆえに、『異邦の騎士』面白かったぜ、というに留める。
……というだけでは自分の読書メモとしてはなんなので。やっぱりなんだろう、著者の実質的処女作(といっておれはその後の島田荘司を読んだか読んでいないかという記憶がない)だけあって、ちょっと無理あんじゃね? というところがないわけじゃあなかった。でも、まったく記憶を失った男の奇妙な体験にグイグイ引き込まれていく。その力は強く、「こうだろう」、「ああだろう」思いながらも、最後まで持っていかれた。これまた記憶にないが、何らかのミステリ・ランキングなんかでそれなりに名前が挙がってくるだけのことはある。
で、なんで急にミステリー(というジャンル分けでいいのかな)を読んだかというと、たまたま、としか言いようがないが、ひさびさに小説というものを読んで新鮮な気がした。しばらくノンフィクションばかり読んでいたのでそう思った。今後しばらくミステリーを読むかどうか、そのあたりはわからんが、嫌いじゃないんだ。そういうところで。