早川タダノリ『日本スゴイのディストピア』を読む

 

「日本スゴイ」のディストピア: 戦時下自画自賛の系譜

「日本スゴイ」のディストピア: 戦時下自画自賛の系譜

 

日本スゴイ」の大合唱があふれる現在だが、1931年の満洲事変後にも愛国本・日本主義礼賛本の大洪水が起こっていた。「礼儀正しさ」「勤勉さ」などをキーワードに、戦時下の言説に、自民族の優越性を称揚する「日本スゴイイデオロギーのルーツをたどる。

おれのメーンの趣味とは言い難いが、有隣堂の前で古本のバザーなどをやっていると、思わず古い本を探してしまう。戦前、戦中の本が、安く売っていないかと。雑誌なんかも面白く、「戦時下にこんな広告が」とか見ては楽しんだりしている。

して、本書は当時のどうでもいい、くだらない、取るに足らない本の「日本スゴイ」を集めたものである。大真面目な珍説、現代日本にも通じるといえるような日本人意識、そんなものを紹介している。

が、なんというか、あんまりおもしろくない……といっては身も蓋もないか。やはり、取るに足らないものにいくらツッコミを入れたところで警鐘は鳴らないというか、まあべつにおれは警鐘を求めていたわけじゃないが。素材は面白げなのだが、うまく打ち返せてないな、という印象がある。

「いや、これはキケンを伴うイデオロギーに対する批評だから、おもしろくなくていいのだ」ということも言えるだろうが、だったらもっと当時の右翼、あるいはウルトラ・ライトを叩きのめすくらいのことじゃなきゃならんような気もする。どうも、どっちつかずの感は否めない。

あるいは、おれがライトなのかもしれない。ご機嫌になると軍歌を歌い出すライトなおれ。ライト・イズ・ライト。「そんな時代じゃ、こんなこと言ってないとやってられねえよな」という同情のようななにかがあるのかもしれない。言ってる内容は無茶苦茶だが、ディストピア下にあっては普通だったんじゃないのか、というような。そこにうまくツッコミを入れているかどうか。どうもうまくないような気がする。うまくは説明できないおれもうまくない。そんなところ。