ドラマ『こもりびと』をみる

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「ドラマ こもりびと」

「ドラマ こもりびと」

  • メディア: Prime Video
 

 

10年以上ひきこもり生活を送る倉田雅夫(松山ケンイチ)。重いストレスを抱え働けなくなったことがきっかけだった。厳格な父・一夫(武田鉄矢)は元教師。地元でも尊敬を集める存在だが、雅夫の存在を世間から隠し、立ち直らせることも諦めていた。しかし、自らの余命宣告を機に、最後にもう一度息子と向き合うことに。一方の雅夫は、閉ざされた部屋の中で人知れず、ひきこもりから抜け出す道を必死で探っていた―

ひさびさにテレビドラマなどみたので感想なども書いてみる。

ストーリーは上に引用したとおりだ。ひきこもりの話といっていい。NHKが長年取材してきたひきこもり問題を取り込んでつくった話だという。

ちなみに、おれもひきこもり経験者だ。大学を中退してから数年、ひきこもっていた。

一度ひきこもると、なんだろう、「普通」の社会に戻れないんじゃないかという、個人的な意識がある。吾妻ひでおのアル中漫画に出てきた台詞じゃないが、「一度漬物になった野菜は生野菜に戻れません」。あくまでおれのおれによる体験と感覚だ。ひきこもりも千差万別だ。

おれはといえば、この松山ケンイチのように部屋から出てこないタイプでもなく、べつ親と口を聞かないこともなく、昼夜逆転して黎明期のインターネットして、たまに小遣いもらって南関競馬に通ったりしていた。そのころにはなかったと思うが、ニートという表現の方が近いように思う。『おそ松さん』の六つ子みたいな感じだ。

というわけで、元ひきこもりというか、一度精神がひきこもりに漬かってしまったものとして、やはり他人事とは思えんのだな。ひきこもりやめる羽目になって二十年経とうが、普通の社会に戻れていない。人間として一人前どころか半人前にもなっていない。社会常識を知らない。なんの責任もとっていない。そういうものが、今日もまた積み重なって、世間に対してさらに気後れしていくのだ。どこか、職業訓練学校にでも行ったほうがいいのではないか。行政の支援を受けなくてはいけないのではないか……。

なので、おれは「ひきこもり目線」でこのドラマをみたことになる。あ、松山ケンイチ、部屋はけっこう整理整頓してんだな、とか、おれは嫌々ながら散髪には行ったけど、松山ケンイチは無理なんだな、とか。

しかし、就職氷河期で正社員になれず、契約社員として使い潰されて心が折れたひきこもり十年選手が松山ケンイチというのはどうなのか、かっこよすぎたり、立派に見えたりしないのか。それが、あんまり見えないのだから、役者さんはすごいよな。

と、もうひとりの主役である武田鉄矢である。このごろどうも武田鉄矢の中の人(?)のよい話は聞かないが、これが実に適役だった。元学校教師という設定だし。いや、武田鉄矢は教師じゃないけど、まあ教師みたいなもんだ。これが、典型的な下がりゆく日本、就職氷河期などを理解できない、理解しようともしない昭和の親父という感じで、そっちが武田鉄矢の中の人の性根かもしれないという名演を見せてくれる。

あとは、就活中の甥っ子。何十社も落ちて、しまいには大学の先輩だろうか、それに内定と引き換えにホテルに連れ込まれそうになったりする。悲惨だ。

でも、ドラマの方は悲惨で終わらない。いや、これからいくらでも悲惨な展開はあるだろうが、とりあえず半分希望も感じさせる終わり方をする。

おれは一方で、べつの終わり方を思い浮かべては消えなかった。松山ケンイチはやはり布団から出られない。甥っ子は入った会社がブラックで精神を病む。そんなのを『闇金ウシジマくん』の絵で思い浮かべていた。

作中でキーとなるのは『ザ・ブルーハーツ』の曲。おれも「too much pain」が一番好きだな。次は「少年の詩」だ。おれもいつかナイフを持って立ってるかもしれない。どこで? 台所とか。

 

THE BLUE HEARTS