またまた寄稿いたしました。
どうにも、精神障害者としてのおれが、精神障害者の先達の話を読んでも、ぜんぜん参考にならねえというか、そういう話です。
ですけどねえ、書いて終わって、掲載されて、あらためて思ったのは、今どきロールモデルも先達もなにもねえんじゃねえかってことで。そりゃあねえ、上場企業の正社員とか、医師とか弁護士とか地主とか、なんか問題なく生きられる地位を手に入れた階層にとっては、結婚し、家庭を作り、マイホームを手に入れ、子育てをし、やがて老後を……みたいなのがあるかもしれねえ。
でもねえ、おれみたいな精神障害者、というと範囲が狭くなるが、婚期もなにもなく底辺を這いつくばってきた就職氷河期の人間とか、先達がいねえんじゃねえのかとか。
いやね、おれだってね、小学生の頃とかにはね、「自分もいずれ結婚して、子供とか作って、マイカーとマイホーム買って……」って、ぼんやり思ってたもんよ。いや、高校生くらいのころまでは思っていたかもしれない。
甘い、甘すぎた。そもそも、友人ができても一回喧嘩したらもう二度と修復できず、最後には一人になってしまう性格とか、精神異常、今でいえば発達障害を疑ってもいい人間が、そんなん思うのが間違いだった。ただでさえ、中高男子校だと女性との接し方がわからなくなる。
それでもって、引きこもり、大学中退、ニート、底辺労働者、これでどうなるものか。というか、こうなって、これこれこうやって生きていけばいいんですよ、なんてお手本はないよな。
ああ、しかし、それにしても、昭和のころは、普通に生きていれば、普通に家庭を、家を持てるものだと思っていた。これはもう、下の世代の人にはわからないかもしれないが、それが当たり前だと、幼稚園なり保育園を出たら小学校に行くように、当たり前の行程だと思っていたのだよ。
よく、上の世代の、氷河期の中年が、「サザエさん一家やクレヨンしんちゃんの一家が『普通』ではなくなっていた」とか嘆いているのを聞くこともあると思うが、それが実感なんよ。クレしんのとーちゃんは、エリートじゃねえかって、まさにそうなんだよ。そうなっちゃったんだよ。磯野家、フグ田家(今、はじめてこれを打とうとして、「河豚田」とかでないのに気づいた)は、専業主婦を二人も抱えているし、野原ひろしだって専業主婦(だよな?)と子供二人、しかもマイホームだ。
もちろん、そういうルートに乗れた同世代もいるだろう。というか、面倒なので調べないが、半分以上はそうだろう。おれの同級生のあいつやこいつ(おれは小中高大あらゆる世代の同級生と縁が完全に切れていて、顔も名前もほとんど脳内にありません)も結婚して、家庭を築いているのかもしれない。それなりの実家があるかもしれない。でもなあ、そういうやつばかりでもないだろう、という。すくなくともおれは実家もないし、頼れる親類もいない。誰一人いない。
いや、実際どうなんだろうな。まったく同世代の人間との関わりを絶ってしまったから、はっきりいってわからん。独身で苦しんでいるやつばかりだとも、いや、結婚して子供いるやつ多いよとも言えない。なんとなく、就職氷河期の苦悩の話をなんかの記事で読むくらいだ。
なんの実感もない人生。それがおれだ。そんなおれが参照すべき人もいないのは当たり前か。もちろん、おれがだれかのロールモデルになることもありえない。ひょっとすると、もう、一部の階層を除いて、一人で生きて一人で死ぬような、前例のない人生を歩む人間が少なくないのかもしれない。でも、社会はというと、そういう人間向けに作られてはいないし、結婚して、家族を作るのが当たり前という前提かもしれない。むしろ、負け犬は負け犬で、やはり圧倒的に少数派なのかもしれない。まるでわからん。
こないだのフジテレビ、「ザ・ノンフィクション」。結婚相談所を利用する女性。手取りは13万円だか14万円だかの飲食店勤務、実家暮らし、30歳。せっかく、代々地主の富裕層と結婚できそうな機会が訪れていたのに、それをふいにしようとする。「なにをしているんだ! 馬鹿か! 金持ちの、専業主婦になれるんだぞ!」と、画面に向かって憤るおれ。ほんとうに、馬鹿か。地主階級、人生の圧倒的な勝ち組になれるのに、小さなことにこだわるな。
生きろ、生きろ、生きられるなら生きろ。生きられるチャンスを逃すな。そのためには我慢をしろ、やりたくないことをやれ、罪だって犯せ。それがすべてだ。勝ち組になれるなら、人を騙せ、憎悪を糧としろ。それしかない。それしかないんだ、同輩よ、後輩よ。人間、死ぬまでが地獄だ。それだけは言い切れる。敗者の、負け組の言葉を信じろ。反面教師にしろ。だから、大学を出ろ、いい大学を出ろ、大きな会社に勤めるか、役人になれ。そうでなければ、負けること決定だ。悲惨な人生を歩む。太い実家があるならば別だし、そんなものあるなら、吊るされろ。おれが呪詛をかける。おれの呪詛に効果はない。敗者の地獄を選ぶな。選ぶしかないなら、生きるな。もう諦めろ。すべて捨てて、裸で冬の荒野に歩みだせ。そして踊れ、死ぬまで踊れ。地獄の中にあって、せめて踊って死ね。それだけだ。