競馬ちょっといい話(菊花賞でルメールがやったこと)

 

競馬の天才!2020年12月号 [雑誌]

競馬の天才!2020年12月号 [雑誌]

 

 『競馬の天才』2020年12月号に、ちょっといい話が載っていたのでメモしておきたい。ターザン山本の「競馬バトルロイヤル」、対談相手は松田国英調教師である。話は今年の菊花賞

 

ターザン 先生、先週の菊花賞はどう見ました? 2週連続で無敗の三冠馬が誕生。とくにコントレイルは“父子で無敗”というオマケ付き。でも、直線で「あわや負けるか!?」というシーンもありました。

 

松田 アリストテレスルメールは道中、コントレイルにずっとプレッシャーをかけていましたからね。祐一クンは相当キツかったでしょうね。道中、祐一クンの拳はずっと上がっていました。これは「口を割るか、割らないか」のギリギリのところで我慢させていたということ。ルメールマンマークでコントレイルは消耗し続け、アリストテレスの脚は溜まり続けた。ゴール前のクビ差は、本当にギリギリの差だったと思います。ゴール後、私は「さすが祐一クン!」という気持ちと「ルメールは紳士だな」という両方の感想を持ちました。

 

ターザン ルメールが紳士とは?

 

松田 道中、コントレイルにプレッシャーをかけ続けるところで、もしも鐙と鐙をコツンと当ててみたり、馬がイラ立つように「チッチッ」と声を出していたりしたら、祐一クンはもっと困ったかもしれない。でも、ルメールはそんなことをせず、まっすぐ走らせましたからね。

 

ターザン ルメールは正攻法だったんだな。

 

松田 ルメールのいいところは、馬主さんや牧場、厩舎、馬券を買っているファン、報道陣など、競馬にかかわる人たち全員が納得できる乗り方をすること。自分のベストプレーを見てもらうために乗っている、といってもいい。相手を潰して自分だけが勝とうなんて考えはない。菊花賞では、本当に、一度も接触がなかったですから。手前を替えるときに、ちょっと横にズレたりするものなんですけど、それもなかった。ギリギリのところでプレッシャーをかけ続けながら、アリストテレスの力を引き出していた。あれがルメール最大のプレーです。ざっくばらんにいえば、海外では横にちょっと動いて当たっただけで失格だけど、日本はまだ、そこまで厳しくない。馬券に絡んだ妨害以外は降着にならないでしょ。でも、ルメールは、制裁のあるなしに関係なくまっすぐ乗り切った。見応えのある、紳士的なマッチレースでしたよ。

 

ターザン すごく高度な解説だ。面白い!

 

松田 私、50年も競馬を見てきましたから!

いやあ、菊花賞、あわやという場面を見せたアリストテレスルメールは、そんな正攻法で紳士的だったのか。いや、近くで見てもいないのに「チッチッ」と声を出してないなんてわかるの? というのも野暮だろう。なにせマツクニさんは50年競馬を見ている。専門紙の記者から厩務員になり、そして調教師になった。そしてご存知の通り、クロフネタニノギムレットキングカメハメハダイワスカーレットなどなどを育てあげたわけで。あるいは、人も育ててきた。そのクラスの人が言うのだから、ルメールは紳士だった。おれはそれを信じよう。

しかしそうか、おれは馬券をするばかりのファンではあるが、ルメールは信用できる。どうもよくわからんな、というときは、人気サイドのルメール(もちろんルメールが乗るのだから人気になる)から買って、それできっちり好走してくれる。そういう印象は強い。

そのルメール、決して強引な競馬、一歩間違えればアンフェアな競馬をせず、菊花賞という大舞台でも大本命馬にプレッシャーをかけつつ、それでも一線を越えない。それはいい話じゃないか。おれはそう思った。

もちろん、競馬の魅力は紳士的なフェアプレーだけにあるとは思わない。審議にならないくらいにコーナーでダンプ(競艇用語)を食らわすとか、前を塞ぐとかいうことも、ときには魅力ですらある。もちろん、自分の馬券が当たったときについては。それでも、フェアでなおかつ強いというのはいいじゃないか。その、いいじゃないか、というのがここのところの「毎週ルメールの勝利ジョッキーインタビュー聞いてんな」につながっているのなら、なおさらいい。

……というわけで、今度の日曜日に控える三冠馬三頭によるジャパンカップ、本命はルメールの乗るアーモンドアイ、ということにしておこうか。三歳世代のレベル、というのは信じていいかどうかわからない。わからないが、たとえばサリオスはマイルチャンピオンシップをぶっこ抜かなかった。牝馬戦線もどうだろうか。やってみなくちゃわからない。わからないから博打が成り立つ。そこで、おれは三歳馬二頭よりも、アーモンドアイ最後の戦いに賭けようかと思う。三頭の序列をつければ、斤量を加味してデアリングタクトが二番手、三番手にコントレイルとしたい。コントレイルにはまだ菊花賞の疲れがあるかもしれない。

が、馬券がそれでは面白くない。そこで、おれはサートゥルナーリア……と思っていたのだが、回避とのこと。とすると、やや強引かもしれないがカレンブーケドールを推すか。いや、たぶん勝つのは三強の一頭。だが、一着から三着まで占めるようには思えない。カレンブーケドールが抜け出すところに、後方からアーモンドアイとデアリングタクトが鬼脚で突っ込んでくる。コントレイルはやや伸びを欠く。そんなところでどうだろうか。枠順もわかってないし、まだわからん。ただ、三強で三着まで独占ということがあるのかどうか、ちょっと懐疑的だ。私、25年も競馬を見てきましたから! ……とか言えたもんじゃねえけど。うーん、楽しみだな。大久保洋吉元調教師ですら百年に一度とすら言っていたぜ。

だから、なんだ、競馬を知らないやつも、今度の日曜日、午後三時くらいからフジテレビにチャンネルを合わせてみてくれよな。当年の無敗の三冠牡馬・牝馬と、歴代芝G1最多勝馬がやり合うんだ。意味はわからないと思うけど、これ以上のマッチメークというのはほとんどないぜ。競馬は楽しい、美しい。そんなに外をほっつき歩くご時世でもないぜ。ぜひ、ご自宅で観戦してみてくれ。たぶん、なにかすばらしいものを見られるはずだ。