
直腸を手術したあと縫い合わせた部分が狭くなっていて、このままではストーマ(人工肛門)が閉鎖できない。そこで、狭くなっているところにバルーンを入れて膨らませて、腸を拡張することになった。現代医学にはなんでもある。いや、ないのだろうけど、あるものはある。
朝、病院へ。事前検査はなし。内視鏡の窓口に行く……と、こちらではないですと言われる。たしかに窓口の番号が違った。内視鏡でバルーンというから、前と同じ内視鏡検査室でやると信じ込んでいた。こないだ尻バリウムやった方の窓口が正解だった。
そちらの窓口で受付すると、すぐに中待合に行くように言われる。とはいえ予約の55分前、しばし待つ。しばし待って名前を呼ばれて、検査着と尻穴パンツに着替えるように言われる。着替える。冬だけに着替えの荷物がかさばる。
検査着で少し待って名前を呼ばれる。同意書みたいなやつの確認などもした。そして……手術室? へ。処置室とか、あるいは機械の名前を指して呼んだ方が正確かもしれないが、よくわからない。よくわからないが、手術台のようなものがあり、レントゲンがなにか撮る機械が上にあり、内視鏡検査室より広い部屋だった。
台の上に腰掛けるように言われる。血圧、脈などをとる。仰向けになる。指からとってる何かが「ピッ、ピッ」と音を立てて手術感が高まる。そして、「点滴で麻酔入れますね」。点滴で? 本格的じゃないか……。
麻酔入れたあたりで若い医師が入ってくる。よろしくお願いします。横になって尻を突き出すように言われる。少しぼんやりしていたかどうか。尻に何か塗られて……挿入。
痛いか痛くないかで言えば、少し痛い? 空気が入ってくるのが気になる。というより、尻の穴になにか入れられる違和感というもの。そして、ジュワーっと何かが充填される音……を聞いたような気がする。「ああ、バルーンには空気でなく水を入れるのだったな」などと思う。2回くらい充填があったか。「おつかれさまです、終わりです」。
看護師に「お腹やお尻は痛くありませんか?」と聞かれる。違和感はあるが痛いほどではない。そして、このあたりで麻酔の効きが頂点に。でも、意識を失うほどではない。血圧測るのと、指先のピッピを外すが、点滴はそのまま。しばらくして医師が入ってくる。
「聞いていると思いますけど、一回では終わりません。狭いですので、順調にいって次の次、次くらいで卒業ですね」。
大腸吻合部狭窄からの卒業。世の中にはいろいろな卒業がある。その後、次の予約の話をして医師は去る。看護師が「お迎えが来るまで待ってください」という。
しばし仰向け。ここでストーマとストーマカバーに違和感があるような気がして仕方ない。なにか大きく左にずれているような。いや、ずれるはずがないので、ベルト部分か術着の紐の結び目が気になったのだろうが。
しばらく待つ。しばらく待ちながら、「こんなに部屋を占拠して、ひょっとしてこれはけっこう高いのでは?」とお金のことが気になる。お金のことを気にしていたら、お迎えがくる。車椅子を持ってくる。履いてきた靴を履いて(こういうときメレルのジャングルモックは便利だ)、車椅子に座る。バッグ、着替え、ダウンジャケットを持たされる。こんな山盛りの荷物をかかえた車椅子の人っているか? などと思う。
そのまま車椅子で押されて、別の階、外来の奥の方の部屋へ。思えば入院したときも車椅子移動はなかった。
そして、リカバリールーム(といっても椅子をカーテンで囲っているだけ)のようなところで、座って、回復を待つ。何分とも言われなかった。いや、前の説明で一時間とか言ってたか?
市大病院での最初の内視鏡のあと、「手術、手術!」と言われて、頭が酷なことになりながらリカバリールームで過ごしたことを思い出す。
が、それも束の間、よくわからないがストーマの動きが活発になる。キュッ、キュッと締め付けがある。背もたれに背中をつけていられない。やや前屈み気味になって、その不快感に耐え続ける。これを予想したわけではないが、朝も何にも食べていない。ほんとうにストーマは嫌だ……。
それから何分経ったか。周りからは看護師たちの「救急車が来るけど空きはある?」という切迫した会話から、何かの検査帰りで漏らしてしまったらしいお年寄りの呻き声、診察室からの「胆嚢を切除した方がよいかもしれませんね」みたいな話まで、いろいろと聞こえてくる。でもおれは、ストーマがキュルキュル、ギュルギュルするのでそれどころではない。
と、横に自分のバッグが置いてあるのに気づく。腕時計を外して外のポケットに入れたはず。出して時刻を見る。うーん、さっきの部屋で時計見たときのこと考えると、やっぱり一時間か。iPhoneは荷物の下の方のダウンジャケットのポケットにあって、そもそもここで使っていいかわからないので諦める。
その後、ほかが忙しくて忘れられてたんじゃないかというころに看護師さんが来て、状態確認して点滴抜いてくれる。そのまま着替えて窓口に行ってくださいとのこと。おれはそのようにした。
拡張術、そこまで含めて二時間とちょっとか。何かこう、感覚的には小さな手術をしたような気にもなったが、まあ手術と呼ぶには切ってもいないしな、などと思う。その後、トイレに行ったら尻の方からなにか出て、拭いたら血でべっとりだった。
さて、この拡張術は前回の内視鏡の結果、急遽入った予約。元から入っていた診察(すべて順調であれば次の入院に向けた話だったろう)は夕方から。いったん帰ったり、会社に出る元気もないので、院内のコンビニでコーヒーを買い求め、これをこのようにして書いて時間を潰している。診察の結果は追記する。
追記:
診察は午後四時の予定だったが、それよりも早くポケベルが鳴った。診察室に入ってみると、入院時に回診してくれた三人組の医師の一人で、とても若く見える人だった。
バルーンがどうだったか聞かれたので、「あと三回くらいと聞きました」と答える。次のバルーン予約日はきていたようだが、その辺の意思疎通はないようだった。
「それで、2月27日の手術日はおさえてあるんですが、どうしますか?」
え、どうしますかって、それはおれが聞かれることだろうか。バルーンができるのは二週間に一回(腸に負担なので)。間に合わんのでは? え? どういうこと?
「それはあの、狭いままだと後遺症とかもひどくなるのでは?」などと言ってみる。「後遺症はですね、最初は大腸が水分を吸収しないので、いまストーマから出ているようなゆるい便が一日に十回も二十回も出ます。けれど、大腸の機能が戻ってくると、硬い便が狭いところに詰まります」とのこと。
それで、その日程は主治医がすべて順調に行った場合の話でしたというと、そういうことならといったん取り消しになった。いや、どうしますか? に、「何がなんでも一日でも早くストーマを閉鎖したいです」って言ってたらどうなったんだろう。よくわからない。
というわけで、二週間に一度のバルーンを最短でもあと三回は受けることになった。三月のはじめに一度診察が入った。今後の予定はそんなところ。
で、会計。高くなるのでは? という予感が的中。明細の項目は「手術」で、診察と合わせて三万五千円くらい。高額医療費くらいちょうど持っていかれる感じだろうか。これは激痛。……とはいえ、検査、検査でいろいろ行ってたときから、もう病気にかかる金はもうしょうがねえなという気になってはいる。
しかしなんだ、がん保険などで「がん手術のために造設したストーマを閉鎖しようとしたら腸の吻合部が狭窄してたので内視鏡的バルーンで拡げる」ところまでカバーされるのだろうか。まあ、そのあたりはおれには縁のない話だった。あ、でも、共済の入院費一日二千五百円は請求しとかないといかんな……。