「こんなことは言いたくないけど」

「こんなことは言いたくないけど」って、それって絶対に言われたくないこと言うわけですよね? 言われたくないことってのは、聞きたくないことですよ。だから、ちょっと待ってください、時間をください。外、歩いてきます。え、ここ外ですか。どこの外ですか。人生の外ですね。みんな人生を生きているのに、どうもそんな感覚なかったんだ、おれ。道なき道を行くとか、そんなんじゃなくて、なんか遠足とかの行列で、ひとりで勝手に脇道にそれて先生に連れ戻されて、理由をきかれてもわからないみたいなのあるじゃないですか。背の順だから自分が先頭だけど、その前には先生が先導してるはずじゃないっすか。でも、どっか行っちゃうんだ。これが行く方向だって、自分で決めちゃうというか、決めたって意識もなくて、無意識にてこてこ歩いてっちゃう。てこてこ歩いてったさきがこのありさまだってのはわかってる。お金はないし、今年もたぶん有馬記念で六十万円くらい払い戻しうけないとやばいみたいなところに立たされてるし、まったく、国はなにをしてるんですかって話ですよ。そんなにね、増税するぞっていうなら、その目的も含めてね、選挙して国民の信を問うべきじゃないですかって、いや、そんなふうに思うんですよ。庶民いじめはノー。いじめってのはひどいもんだ。みんなで寄ってたかって、遠巻きに見て、助けもなく、ただひとりで、ひとりの世界に逃げ込まなきゃなんねえから。そんな木はね、まっすぐに育たないんですよ。スギの語源が「直ぐ」かもしれないって知ってましたか? あ、そのPSDデータに色調補正できないのは、カラーモードか、Illustratorからスマートオブジェクト形式かなんかでペーストされたまんまになってるからじゃないですかね。違う。それでね、いつも図書館に行く道の横に焼き鳥屋があって、いっつもその時間は閉まってて。それで、たまに夜の図書館へ行ってみたら、「おでん」って光ってて、ああ、焼き鳥屋つぶれておでん屋になったんだなって思ったんですよ。でもね、帰り道によく見てみたら、やっぱり焼き鳥屋なんだ。要するに、焼き鳥とおでんを両方出す店だったんだ。もちろん素通りですよ。チェーン店以外は怖くて入れないから。はい、怖がりですよ。怖がりこそ怖いものが作れるとかいう話もあるけど、おれも焼き鳥屋やりますか。鳥貴族以外行ったことないけど。ああ、鳥貴族は味が濃すぎると。濃い味でたくさんビール飲ませようっていうんじゃないですかね。もう、ビールたくさん飲む時代でもないですか。若い人は、たばこも吸わない、酒も飲まない。いいことですよ。でもね、もうこの世から紙巻たばこなくなるって時代を生きていて思うのはね、自分が若いころたばこ吸っててよかったなってことなんですよ。映像作品とか、そんなんで、こう、たばこを吸うシーンが出てくる。新しい作品でも、時代設定によっては吸う。たばこはなんか便利な小道具なんだってのもあるかもしれねえですけどね、ともかく、おれはたばこを吸うってのがどんなことか知っているし、自分の好きなライターでなんか葉っぱに火をつけて煙を吸うって、文明的で野蛮で文化的で愚かで精神的で肉体的なことなんですよ。いまでも五年に一度くらいは吸いたくなりますよ、一本くらい。だいたい、五年に一度くらい今でも喫煙者やってる弟と会うと一本めぐんでもらってたんですが、こないだ会ったら電子たばこってんですかね、そういうやつ吸ってるんですよ。一本めぐんでもらえない。野郎が吸ってる電子たばこくわえるなんてのは気持ち悪い。もうね、コミュニケーションの断絶です。人間の疎外ですよ。労働がよくないんだ。現代の賃労働ってのは、あのね、奴隷制そのものなんですよ。資本主義がね、奴隷船を生み出したんじゃあない。奴隷船がね、資本主義とこの労働社会を作ったんだ。だからね、おれみたいなのもその犠牲になって、かわいそうなもんでしょう。だから、有馬記念で六十万円勝たなきゃいけなくなるんだ。え、今年トータルでいくら買ってるんだって? そんなん言えるか。でもね、もちろん勝ってはいないでしょうが。そんなの、あなた、あなたの人生はトータルで幸福ですか? 不幸ですか? そういう話じゃないか。人生楽ありゃ苦もあるわけで、混ぜて溶かしてリトマス紙で判別できるもんじゃあないだろ。そうだ、だからね、おれは約束も破るし、遠足の行列には従わねえ。いい子たちの列には加わらない。でもね、ときどき何かが違うな、頭が真っ白だって、そんなふうに考えるんです。