「課長、もう、辞めさせてください! こんな職場は耐えられない! 出るところに出ます!」
「君、ちょっと、落ち着きたまえ。いったいなにが問題なんだね。就業時間も問題ないはずだし、パワハラかね?」
「パワハラじゃありません、ラジハラです!」
「ラジハラ?」
「職場で流れているラジオです!」
「うーん、君は聴覚過敏とかそういうものだったのか。だったら、ラジオを止めよう。それに君も耳栓などを使用していい。これでどうかね」
「僕は聴覚過敏ではありません! ラジオが流れていることじたいも問題ありません! なんでわからないんですか!」
「いや、ちょっとわからない」
「ラジオ局ですよ! こないだ、電波の入りが悪いからといって、TOKYO FMからJ-WAVEに局をかえたでしょう。もう、ぼくはJ-WAVEに耐えられない!」
「うーん、そうはいっても同じ東京のFM局じゃないか。そんなに違わないだろう、FMなんてものは」
「違います! 住吉美紀さんも山崎玲奈さんも稲垣吾郎さんもハマ・オカモトさんもマンボウやしろさんも浜崎美保さんも、みんな自分の言葉で喋る! でも、でも、J-WAVEのパーソナリティは……」
「なにか違うのかね?」
「虚無なんです。おしゃれな発音でおしゃれな曲を紹介する。J-WAVEだからNulbarichも流れる。でも、それだけなんだ。言葉がないんだ。これがなんだかわかりますか? FM的虚無ですよ。仕事中、僕の耳には虚無が流しこまれるんです。そのせいで、仕事が捗ってしまう。言葉が、意味が足りないんだ。つまらない仕事から意識をそらすことができない! こんなことが許されると思いますか!」
「『捗ってしまう』? 『つまらない仕事』?」
「あ、あの、虚無が……」
「仕事に戻りたまえ」
「アッハイ」