もう苦しそうじゃない― 宇多田ヒカル『Fantôme』を聴く

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ディスクをケースから外すと、次のような言葉が書かれていた。たぶん。

Only you can show me love
Even when you're not around
Only you can make me bound

 だれによる、だれへのメッセージだろうか?

 

宇多田ヒカルの帰還。女王の帰還だ。アルバム『Fantôme』。おれはこのときを待っていた。絶対に待っていた。けっこう待っていた。わりと待っていた。宇多田ヒカルがあのまま人前で歌わない人になってしまうというのは、あまりにも惜しいと思っていた。もちろん、それを選択するのも彼女の自由だが。

おれは宇多田ヒカルが好きである。今のところかなわぬことだが、おれの夢は宇多田ヒカルのヒモになることだった。勘違いしないでほしい、宇多田ヒカルが「人間活動」宣言するまえから言っていたことだ。

一曲目は「道」だった。NHKの番組で最後に歌ったやつだ。てっきり、アルバムでもラストに持ってくるかと思っていた。なんとなくだ。亡き母親への思いをストレートに打ち込んでくる。ストレートでキャッチー。躍動感すらある。これを一発目に持ってくる。いいな、と思う。よくないと思える理由なんてありゃせぬ。

NHKといえば三曲目に「花束を君に」。おれは朝の連ドラを見る習慣はないが、たまに目覚めの時間が間に合えば、オープニングだけ聴いていた。そのくらいいい曲だと思う。これもまた母への歌ともいえるのか。サビの前の一瞬の間に入る音が好きだ。

そして、椎名林檎とやけにくっついているMVが印象的な「二時間だけのバカンス」。なんか椎名林檎の「茜さす 帰路照らされど…」のメロディが一瞬あたまに思い浮かんで消えた。それは「■■」のあたりで、サビになるとガラッと変わって、なにかズンチャカ、ズンチャカして楽しい。楽しいけどすこしさみしい。とくにおれなどは今「■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■」あたりに感情移入するところがある。

「ともだち」はこれまた先の番組で同性愛者の叶わぬ想いの曲であると明かしていた。「僕は男性経験のないバイセクシャルだ」といって物議をかもしたのはブレット・アンダーソンだが(いつの話だ)、宇多田ヒカルにもそういうところがあるのかどうか。と、椎名林檎とやけにくっついている映像が頭をよぎったりする。しょうもないです、おれ。けれど、「■ ■ ■■■■■■■ ■■」という遊び心と切実さのある歌詞には、BL、百合好きのおれにはわりと刺さるところがある。

一転して、いや、一転しなくてもいいが「真夏の通り雨」は失われてしまった恋愛が切々と歌い上げられている。「■ ■■■■■■■■■■」から「■■■■■ ■■■■」とくるその強さと儚さ。これを「真夏の通り雨」にたとえているあたりの感性が好き。

「忘却」はラッパーとの共演。「■」が「そんなの咲いて」にも聴こえる。これも母の死のファントームを感じる一曲。おれも飲むので「■■■■■■■■■ ■■■■■■ ■■■■■■■」というあたりは、なにかいいと思える。

最後から二番目の曲は「人生最高の日」。タイトルからハイテンションパル。「■」の節のつけかたがいい。なにか、遠い日の若い恋の記憶をちくちく突いてくるような一曲。しかし、恋は遠い日の花火ではない、のかもしれない。

ラストは「桜流し」。おれは「アルバム二番目の曲最強打者説」というのを抱いているが、宇多田ヒカルはラストバッターに重きを置くように思える。そこに、おそらくは製作時期が他と異なる、それでも重みのある「桜流し」。なるほど、ここに置くのが据わりがいい、という感じもする。そしてあの映画の続きを観たくなる。そして、この曲もやはり亡き母への、そして「■」から、自らの出産を……という思いがしてしまうが、たぶん発表はそれより前のこと。なにか不思議な思いがする。

……飛び飛びであるが、アルバムを二度、三度と聴いた感想はこんなところである。ところで、おれは宇多田ヒカルが好きだが、おれの女はあまり好きでないという。理由はというと、「なんか苦しそうに歌っているから、疲れているとき聴くとよけい疲れる」ということである。いまいちピンとこなかったが、先のNHKの番組で宇多田ヒカル自身が過去の自分の歌い方を苦しそうだと言っていたので、そういうものかと思った。それを意識して聴くと、うん、なるほど、なにか無理がないというか、苦しそうじゃない。もう苦しそうじゃないんだ、宇多田ヒカル。下手すれば暗くなってしまうような意図が込められているのかもしれないが、歌声は伸びやかで、苦しそうな感じがしない。本人がそう言ってたから、というバイアスはあるにせよ、そのようにも思った。

いずれにせよ、宇多田ヒカルが帰ってきた。よろこばしいことである。下手すれば、「宇多田ヒカル」というものを知らないで思春期を送ってきた若者がいるくらいの休止期間だった。果たして、どこまでこの歌声たちが届くのか、そんなことおれには関係ないといえばないのだけれど、気になるのもたしかだ。ゆけゆけ二度目の宇多田ヒカル、どこまでもゆけ!

 

※文中お見苦しい箇所がありますが、以前この程度の歌詞の引用で株式会社はてなさまを通じ、JASRAC様からの警告を受けたことがあるための措置です。ご海容のほどお願い申しあげます。

 

Fantôme

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……おれは楽天ブックスで買ったら今日とどいた。

 

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……なんで二回も競馬と絡めているのか。