新井浩文、という名前を見かけると、その作品はおもしろいんじゃあないか、という気がする。本作もそうである。輪をかけて安藤サクラである。『かぞくのくに』の安藤サクラだ。安藤サクラも「その作品はおもしろいんじゃあないか」、という気にさせてくれる俳優のように思える。
なによりも、冒頭のダメ人間っぷりがすごい。よくぞまあ、この血筋から、ここまでダメな人間を演じられる人間が出てくるものだ、と思わずにはいられない。「演じられる」というか、ダメそのものという感じであって、そのルームウェアのダメダメさからして、自転車の乗り方からして、一見の価値があるといっていい。
そして、さらに必見なのは冒頭に繰り広げられる、いかにもラーメンが獣臭い姉妹喧嘩である。このラーメンの獣臭さときたらかなりのもので、そこらへんで繰り広げられる酔っぱらいの喧嘩や、下手すればテレビで放映される格闘技よりもすごい。妹など、女子格闘家に見えてくる。
と、そのあと主役である安藤サクラがボクシングを始めるというのがなかなかの展開であって、顔つき、体つき、身のこなしが変わっていくさまというのもたいしたものである。おい、安藤サクラにおれからなんか賞を出そう、という気になる。いや、おれが出さないでも、立派な賞をもらっているわけだけれども。たしかにその価値あり、といえる。
それにしても、なんだろうか、この底辺感。おれだって社会の底辺にいるつもりではいるが、それ以下もあるんだな、という当たり前の事実。ただ、一歩踏み外せば、おれもこの世界かという事実。それは生臭い、敗者の道。しかし、主人公はその中にあって、もがいて、一筋の光を見ようとする。人生でなにかに勝つという体験を求めようとする。そこがいい。そして、おれもまた、なにかに勝つという体験なしにのんべんだらりと生き続けてきて、このざまだ。おれは息絶えるまでに、なにかに勝てるだろうか、勝とうとして努力することがあるのだろうか。そんなことを考えてしまう。以上。
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