カート・ヴォネガット『パームサンデー』を読んだ

 わたし個人は、焼夷弾攻撃の思い出をぜひともなまなましい形で保ちたい、とは思いません。もちろん、人々が今後何年ものあいだこの本を読んでくださればうれしいのですが、それは、ドレスデンの悲劇から学ぶべき重要な教訓があるからではありません。わたし自身、そのさなかにいて学んだのはただひとつ、人間というものは戦争ですごく興奮すると、偉大な都市を焼き尽くしたり、その住民を殺したりまでするんだなあ、ということです。
 それはべつに新しい発見ではありませんでした。

 このところ第二次大戦のドイツを空爆から守る側の、というか、守っていた飛行機乗りの話ばかり読んでいたが、もちろんたくさんの爆弾が落っこちて、たくさんの自由が死んだ。いきのびた人間ももちろにて、カート・ヴォネガットもその一人だった。図書館の本棚で「そうだったな」と思って、「自伝的コラージュ」の『パームサンデー』を手にとった。ちなみにヴォネガットはドイツ系アメリカ人で欧州戦線にいてドイツの捕虜になっているさなか、ドレスデン爆撃に遭遇した。『スローターハウス5』を読めばよろしい。

 カート・ヴォネガットのものはだいたい読んでいる。だいたい読んでいるということは、いくらか読んでいない。おれは大好きな作家なりを見つけても、すべて、徹底的に、全部読んでしまうということはない。いつもいくら残している。なぜならば、その作家が遺した作品は有限で、すべて読み終えたら読み終わってしまうからだ。
 一方で、おれはこの点において、自分が本を読めるということについては、あたかも無限の時間を持っているかのような、そんな気分を抱いていることは否めない。自分が傾倒する作家が傾倒する作家や作品なども、気にはとめておいて手を出さなかったりする。おれはおれが無限でないことに気づいていないらしい。そういうものだ。ピース。
 ピースといえば、どこかでヴォネガットがあの煙草のマークに似た鳩の絵を書いていたような気がするが、勘違いかもしれない。巻末で翻訳者とヴォネガットの対話が載っていて、ヴォネガットが吸っているらしい煙草のPall Mallの読み方について話していた。由来を知っているやつはペルメルと読むだろうが、たいていのアメリカ人はポールモールと読むんじゃないか、ということだ。まあ、おれはPall Mallを吸ったりしたことはないが……。

タバコといえば、最近特定の銘柄を吸うようになってきている。Pall Mallの青色だ。理由は何って、二百五十円だからだ。他に一切の理由はない。味については何の特徴も見出せない。これが定着すれば、俺が特定の銘柄と決めたのはジタン→ジョーカーと来て三つ目となるわけだが、なんとなく好きな銘柄の列に加えたくないのは確かだ。

Seven Stars REVO LIGHT MENTHOL D-spec - 関内関外日記

 大嘘だった。まあ、結局好きな銘柄にはならなかったし、今では煙草もやめてしまった。ちなみに、ジョーカーのあとに来るものがあるとすればアメリカン・スピリットとハーブ煙草のエクスタシー(これは本当にハーブで、例の脱法とか関係ないやつね)だ。
 ところで、上の項でおれは気取って「パルマル」と呼ぶと言うようなことを、わざわざ辞書まで引っ張ってきて言っている。この読み方に関する蘊蓄を教えてくれたのは父だった。父が吸っていたののはピース、だったが。
 思えば、おれがはじめてヴォネガットを知ったのは、父の本棚にあった『チャンピオンたちの朝食』か『タイタンの妖女』のいずれかだが(ほかにSFはなかった)、まあそれから自分で買い始めて、だいたい読んだんだ、たぶん、だいたい。
 なので、なにかこう「自伝的コラージュ」を読んでも、目新しい気はしない。一方で、なにか家族や家系といったものについての記述がすこし鼻につくような気がしてしまった。が、一方で、おれもブログなど書いているとそういうことに触れることも少なくなく、そういうものなのだろう。さらにいえば、ヴォネガットは結婚にも一度失敗しているのだった。
 ちょっと前に「ジョンレノンってたかが4,5人のグループで仲違いしてたくせに戦争反対とかよく言えるな、と僕は思う」。とかいうタイトルを見て笑ったが、まあ拡大家族とか言ってもそういうものなのだろう。ただし、ヴォネガットは再婚したりしていろいろと悪くないことになっているのだし、それもそういうものなのだろう。おしまい。

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 そいうえば、『チャンピオンたちの朝食』の映画は見たような気がするが、『パームサンデー』内でもよくできていると言ってたようなこれは未見だ。いつか見よう。