プランNo.1729


 いよいよ食い詰めたおれは包丁を持って立ってた。右手に一本、左手に一本。回転寿司屋のレジの向こうの男はまず右手を見て、次に左手を見た。そして言った。
 「板前志望ですか?」
 「いいえ、強盗です。お金をください」
 男はうんざりしたような表情で、「一本で十分ですよ、わかってくださいよ」と言う。
 周りからいっせいに携帯端末のシャッター音が聞こえてきた。店内を眺めてみれば、醤油差しから醤油を直飲みする男、裸足で回転皿の上に乗って回ってる女子高生。それを追うように、高速で謝罪文と清掃業務をするアルバイトが皿の上にのせられて回っていた。不祥事が先か謝罪文が先かわからないありさまだった。
 「これはあの、従業員も経営者のマインドが必要とかいうやつですか?」とおれ。
 「あのころ街は美しかったんだよ」と店長。
 手渡されたのはきっかり25万円だった。両手がふさがっていたので、包丁を一本カウンターに置いた。また携帯端末のシャッター音がした。おれは悠然と歩いて店を出た。また携帯端末のシャッター音がした。
 すべての8月の終わりだった。まだ直射日光は熱く、ぬるい空気が身にまとわりついてきた。おれは膝から崩れ落ちるようにして駐車場のアスファルトの上に倒れこんだ。ぐるりと回転して大の字、また横になって全身を太陽に晒した。クーラーの不快な空気がとりはらわれたような気になった。しばらくそのままでいようとしたが、火傷をしそうになったのでおれは立ち上がった。そして、どうしたものかさっぱり先がわからなくなった。仕方ないので、駐車場の片隅に座り込むことにした。
 しばらくすると、パトカーがサイレンを鳴らしながらやってきた。パトカーの上にはもちろん二人くらいの中学生。二人して精液を振りまきながらはしゃいでいた。当然のことながら、同時にトランクからは謝罪文がばらまかれていた。助手席のドアを開き出てきた警察官がおれに近寄りこう言う。
 「わいせつ石こう罪の現行犯で逮捕します」
 ……なんで?