座椅子の上で30分(芸能レポーターはどこに消えた?)

2台のiPhoneに起こされたおれは、座椅子にどすっと座りテレビの電源を入れる。ワイドショーが始まる。おれは30分後にiPhoneのタイマーをセットして、また眠る。ワイドショーを見ながら、また眠る。興味深い話なんてたいていありはしない。ときには5分後にタイマーをセットしなおすこともある。

おれには芸能レポーターが大嫌いだった時期がある。とてもとても芸能レポーターという生き物が許しがたく思えたのだ。ただ、そんなに芸能レポーターが気になるということは、それだけ朝と昼のワイドショーを見ていたことになる。そんな時間があったのは要するにおれが今どきの言葉でニートと呼ばれる生き物だったときだ。芸能レポーターニートになにか言われたくない。

いかにもな芸能スキャンダル、スクープというものが減ったような気がする。だれそれがシャブをやっていたとかいう事件的スキャンダルは別として、「熱愛発覚」だの「ダブル不倫」だの……べつに大した話じゃないことを煽り立てるような……あまり見なくなったような気がする。もっともおれはワイドショー冒頭30分、寝ながら見ているだけなので……ほかの時間にたっぷりやっているのかもしれない。それにしても、「熱愛発覚」、減ったような気がするな。

おれはなんで芸能レポーターが嫌いだったんだろうな。べつにおれは芸能人じゃあない。ともかく、醜いもののように思えてならなかった。嫌悪感があった。今はといえば、べつに好きじゃあないが……そもそも芸能レポーターってもんがいるのか? 梨元勝は死んだ。東海林のり子は今80歳らしい。時間は経つ。

芸能人に寄ってたかっていたものが、今じゃ「社会的な」事件に寄ってたかっているだけだ。殺人、児童虐待死、その他。アイドルに寄ってたかっていた方が平和だったのか。いや、いつだって殺人はある。未解決の殺人もある。けれど、個々の殺人事件一個が……社会全体にとってどれだけ重みのあることなのか。その背景には貧困の問題もあるかもしれない、格差の問題もあるかもしれない。だからといって、一個の事件からそれを引き出すほどの時間が、ワイドショーにあるのか……。おれはタイマーをかけて寝てしまう。

5分後にタイマーが鳴る。おれはようやく立ち上がり、シャワーを浴びる機械になって、つつがなく遅れ気味にアパートを出る。自転車にまたがる、今日もたぶん殺人なんか起きる気がする。有名人は芸能レポーター抜きに、ブログに自分の言葉を綴る。有名でないおれたちもブログやなにかに言葉を書く。おれたちはお互い小さな芸能レポーターになっちまった。そうなのかもしれないな。