抑鬱と夕方の桜

おれは先週の木曜日からおかしくなった。双極性障害躁鬱病)の鬱が出た。おれの鬱の出方というのは、身体がまったく動かなくなるというものであって、動かないまま寝ていれば眠ってしまう場合もあるので、いきなり自殺ということにはならない。ただ、身体が動くようになった午後二時、三時になってみると、このままでは死ぬしかないという思いにとらわれる。それでもおれはシャワーを浴びて会社に向かう。

土曜日。おれは競馬を見たあと、自転車で図書館に本を返しに行った。本を返して、別の本を借りた。ドラッグ・ストアとスーパー・マーケットに寄って、アパートに帰った。まだ空はいくらか明るい。おれはなんとなくカメラを持ち帰っていた。暗くても構わないから、ちょっとそこの公園まで散歩するかと思った。おれはそうした。

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壁に花咲く三月。

 

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壁にこんなものまで見られる三月。

 

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ららら、三月の終わり。

 

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べつに警戒しなくてもいいから、ネコチャン。

 

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伐ったサクラから花の咲く。

 

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根岸森林公園。「もう遊んだ、遊んだ」という家族連れやグループがどんどん帰っていくのにすれ違った。公園の中に入っても「帰ろう、帰ろう」という人たちとすれ違った。どれだけこの公園に人がいたのだろう。

 

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ただし、「公園でシートひいて花見うぇーい」という人はあまり見られなかった。ちょっと、それらしき人もいたが。

 

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もう、暗くなっていた。

 

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グレートな写真を撮るためには芝生に這いつくばれなならない。おれは芝生に這いつくばらない。

 

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少し暗いが、ソメイヨシノくらいは撮る。

 

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スイセンの園芸品種だろう?

 

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ボケ、だろう?

 

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ミツマタの花が枯れて新葉が出ているところだろう?

 

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まあしかし、ソメイヨシノをおれはあまり好まないが、こういう遠景を作るところは嫌いではない。

 

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カラスが水を飲んでいた。

 

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サクラも、葉とのコラボレーションがよいと思うのだが。

 

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そうは思わないだろうか?

 

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つぼみにはつぼみのおもしろさがある。

 

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アセビ。漢字で書けば「馬酔木」。どくがあるので馬が食べるとおかしくなる。根岸競馬場のあとにあるのが皮肉だ。

 

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もう、暗い、別の公園。

 

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みなとみらいがよく見えたってさ。

 

……というわけで、この日は8,000歩歩いた。歩くことは鬱の気を飛ばすこともある。飛ばさないこともある。おれは木曜日と金曜日、午後三時ころ出社した。おれの精神状態はおかしい。おれの躁鬱はいきなりおそってくる。長い間隔で来るというより、いきなり来て、「はい、鬱!」、「はい、反動の躁!」という具合だ。このガクガクがいま来ている。おれはそれが通り過ぎるのを、薬を飲んでやり過ごすだけだ。おれは生きているのが、なかなかに辛い。